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住むほどに魅力を感じる、満足度の下がらない住まい

日本全国には、ただ新築を建てるのではなく、こだわりを持って古民家移築再生を選択された方がいます。
今回お話を伺ったのは、大分県に住むKさん。
古材やその暮らしにどんな魅力があるのか。古民家移築再生を行い、実際に住んでいるからこそ分かる魅力を深掘りしていきます。

古民家が持つ「本物感」に心を惹かれた

――まずは古民家移築再生をしようと思われたきっかけについて教えてください。

私は元々、東京で外資系金融に勤めていて、35歳のときに大分県に引っ越してきました。現在は大分市に住んでいますが、以前湯布院町にいたとき、近所に「無量塔(むらた)」という有名な高級旅館があったんです。よくその前を通っていたんですが、その一棟一棟がかなりこだわりのある造りになっていて、次第に「こんな風な家が建てられたら…」と考えるようになりました。気になって調べてみると、その旅館は新潟県の古民家を移築再生した建物だと知ったんです。そんなこともあって、新潟県へ古民家を見学しに行くことにしました。

――実際に新潟県まで見に行かれたのですね。

そうですね。実は高校生までは新潟県に住んでいたんです。そんな関係もあって、実際に新潟で30〜40軒もの空き家となっている古民家を見て回っていたのですが、そのときに感じたのは古民家が生み出す「本物感」でした。

――「本物感」とは?

新潟県の中でも特に豪雪地帯にある古民家は、雪の重みに耐えるために部材がとにかく大きくて太いんです。ケヤキや地松といった質のいい木材が使われていて、普通の大黒柱が一つある家ではなく、それぞれの柱が八寸角ほどの大きな部材で支えられています。すでに人が住んでいない空き家なので、懐中電灯を照らしながら薄暗い家の中を見て回ったのですが、すごくいいなと思って。こうした質のいい、本物の部材を使って家を建てようと思いました。

  

古材を使って、現代の新しい家を建てる

――実際に建てられた住まいについてお聞かせください。

まず1軒目の大分の家では、さきほどの「無量塔(むらた)」の雰囲気をイメージして作ってもらいました。部材は妙高市の古民家のものを使いました。その後、宮崎県に2軒目の家を建てました。

――2軒目も空き家を利用して建てられたのですね。

はい、2軒目は上越市にある空き家となっていた古民家を利用したもので、ケヤキの差鴨居がすごく特徴的な古民家でした。幅が65センチくらいあって、通常の差鴨居の1.5倍くらいあるんです。私は趣味でサーフィンをやっていて、週末に滞在するビーチハウスとして建てました。

――通常の新築と古民家移築再生による建築。そこに違いはありましたか?

古民家移築再生といっても、基本的には新築と同じです。ただ、そのまま古民家を持ってきてそのまま同じように建てると、どうしても古臭い家になってしまうんです。だから構造材として古材を使って、趣のある板戸なども活用しますが、それ以外は新材を使います。なので古民家が持つ「寒くて、暗くて、汚い」というイメージはありません。「古材を使って現代の新しい家を作る」という感覚ですね。

  

住むほどに発見があるのが古材の魅力

――実際に住んでみて、いかがでしたか?

以前住んでいたマンションに比べると、すごく落ち着きますね。古材に囲まれていると、どこか懐かしい感じがして、居心地の良さにつながっていると思います。現代の家は柱が壁に隠れてしまうことが多いのですが、古材の家は梁や柱といった構造材がそのまま見えているので、まさに「本物」に囲まれている感じがします。

――それは体感してみないとわからない魅力でもありますね。

そうですね。昔の大工さんの技術力を身近に感じられるのもいいです。住み始めてしばらく経つと、ちょっとしたところに大工さんの技や遊び心があることに気づくんです。例えば、節をくり抜いた部分に盃型の木を埋め込んであったり、梁に棟梁の名前が炭で書いてあったり。時間とともに新しい発見がある、というのがとても面白いですね。

――なるほど。どのような方が古民家移築再生に向いていると思いますか?

歳を重ねてからの方が、その魅力をより深く理解できる気がします。デザインだけでなく、その造りや材料に心を惹かれるんです。夜、梁を眺めながら晩酌していると、「なんかいい」んですよ(笑)。この感覚は、歳を重ねたからこそ感じる満足感かもしれません。
それと古材を使った家に住み始めてから、家具にもこだわるようになりました。古材の重厚感に負けない家具でないと似合わないので、一つひとつのものに愛着を持つようになります。器が変わると、中身も揃えたくなる感覚です。これもまた、古材の家で暮らす楽しみの一つですね 。

  

価値あるものを、未来に引き継いでいく。

――古民家移築再生をしてみて、その意義についてどう感じていますか?

新築の家は、建てた時の満足度が一番高くて、時間が経つごとにそれが下がっていくのではないでしょうか。日本の家は法定耐用年数があるため時が経つとその資産価値も下がっていきます。古民家移築再生でも同様に資産価値は下がるかもしれませんが、満足度は下がらないんです。住むほどに発見があったり、新しい価値に気づいたりする。多くの人は気づいてないですが、特に、豪雪地帯の古民家など、日本の空き家には大きな価値があると思っています。
実際、日本では空き家が増えているのに、多くの人が新しい家を建てようとします。でも、良い古材を使った家は、メンテナンスをすれば100年以上は住み続けることができるんです。少し初期コストはかかっても、いい場所にいい古材を使った家を建てれば、孫の代まで住めるかもしれません。そうすれば、子どもや孫は家を建てる必要がなくなるし、他のことにお金を使えるようになります。

――まさに「継ぐ」という価値がありますね。

そうですね。これは自分の代で終わるのではなく、未来へと続く財産を遺すことにもなります。都市部のマンションの平均価格が1億をゆうに超える時代に、そこにそれだけのコストをかけるのではなく、歴史ある古民家を移築して、代々住み継いでいく。その選択肢は、人々の暮らしをより豊かにする可能性があると思います。「もったいない」の精神ではないですが、すぐ近くにあるのに価値を見出されない「いいもの」を捨てずに、次の世代へ引き継いでいくべきだと考えています。


お話しを伺った方:
大分県 K様

インタビュアー:
小田急不動産株式会社 KATARITSUGIプロジェクトメンバー