
店舗売却の流れや費用・税金を解説。店舗ならではの注意するべきポイントとは

目次
店舗経営者にとって、事業の売却は人生の一大転機です。経済環境の変化や個人的な事情により、長年愛着を持って運営してきた店舗を手放す決断をする方も少なくありません。
しかし、店舗売却のプロセスは複雑で、一般的な不動産取引とは異なる独特の課題があります。このコラムでは、店舗売却の具体的な流れ、必要な費用、税金の扱い、そして店舗特有の注意点を詳しく解説します。
売却を検討中の方々が、スムーズで有利な取引を実現するための知識を提供します。
店舗売却の種類・方法
店舗を売却するには、主に3つの方法があり、それぞれに特徴やメリットが異なります。
ここでは3つの方法の特徴について紹介します。
居抜き売却
居抜き売却とは、既存の店舗の状態のまま売却する方法です。設備などの撤去を行わないため、解体費用もかからずに売却できるメリットがあります。
たとえば、売却する店舗が飲食店の場合、厨房の設備やテーブルなども残されたままとなります。買主が飲食店であれば、新たな設備を購入する費用を抑えることができるため、買主と売主の双方にメリットがあります。
一方で、立地が悪く、集客できないような場所で、飲食店を居抜きで売却しても、買い手が見つからない可能性も高いです。
居抜き物件はコストを抑えて売却できるものの、立地が重要視される方法です。
スケルトン売却
スケルトン売却とは、居抜き物件とは真逆で、内装や設備などを全て撤去してから売却する方法です。
解体費用がかかる反面、買主は用途や事業に合わせた内装工事ができるため、購入者の間口が広がるメリットがあります。
飲食店や美容室などは、専門の設備が必要となるため、居抜き物件を狙って購入される方が多いです。
一方、アパレルや雑貨屋など、事業のコンセプトに合わせた内装が求められる店舗の場合、スケルトンの物件を狙っている方が多い傾向にあります。
M&Aによる売却
M&Aによる売却とは、事業ごとに売却してしまう方法です。居抜き売却やスケルトン売却は、物件の売却方法ですが、M&Sによる売却は、事業譲渡を行います。
飲食店であれば、そのまま第三者に売却したりするということです。
物件だけでなく、事業も売却できれば、大きな資金に変えることができるメリットがあります。買い手側は、これまでの顧客を引き継ぐだけでなく、その事業のノウハウを引き継ぐことが可能です。
ただし、M&Aによる売却は、その事業の経営状況が重要です。赤字ばかりが続いていると買い手が見つかりにくいというデメリットもあります。
店舗売却の流れ
ここでは店舗売却の流れについて紹介します。
不動産会社へ査定依頼
はじめに、店舗売却を不動産会社へ査定依頼します。物件の場所や状況などを伝えることで、現地化帰任してもらった数日後に査定価格を出してくれます。
なお、不動産会社の中には店舗売却を得意としている業者も存在します。戸建て土地などより、店舗売却に特化しており、顧客も多く抱えていることから早く売却できるメリットがあります。
媒介契約
次に不動産会社と媒介契約を締結します。媒介契約とは、不動産の売却を依頼するという契約書です。
媒介契約には以下の3つの種類に分かれます。
一般媒介契約 | 1社だけでなく複数の不動産会社へ依頼する方法です。 |
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専任媒介契約 | 1社の不動産会社へ依頼する方法です。 |
専属専任媒介契約 | 1社の不動産会社へ依頼する上に、買主も同じ不動産会社を見つけてくる方法です。 |
もちろん複数の業者に依頼できる一般媒介契約であれば、買主を早期に見つけることができます。
ただし、どのような買主が来るかわからないため、信頼している不動産会社に選定してほしい方は、専任媒介契約や専属専任媒介契約がおすすめです。
売却活動
売却活動は不動産会社が行ってくれますが、買主が見つかった時に備えて、手付金の金額などを打合せしておきましょう。
手付金とは、売買契約時に買主が売主へ支払う手数料のことです。一般的に、売買金額の5%〜10%や100万円とキリのよい金額に設定します。
売買契約の締結
買主が見つかった後は、不動産会社が作成した売買契約書を締結します。
売買契約では、物件の状況などを買主に伝えておく必要があります。この行為を怠ると、売却後に設備の不備などが見つかった場合、契約不適合責任として、売買代金の減額請求などのトラブルにもなりかねません。
もちろん不動産会社がサポートしてくれるため安心できますが、責任所在は売主になります。伝えていないことがないように、しっかり売買契約前に不動産会社と打合せしておきましょう。
売買契約が完了した後は、決済・引き渡しを行います。決済日は、売買契約日の後日(1ヶ月前後)に行われるケースが多く、このタイミングで売買代金を受け取ることができます。
店舗売却にかかる費用・税金
ここでは店舗売却にかかる費用と税金について紹介します。
費用を理解しないまま売却してしまうと、手残り金額が少なかったという事態にもなりかねないため、ひとつずつ確認しておきましょう。
仲介手数料
仲介手数料は、買主との仲介を行ってもらう不動産会社へ支払う手数料です。
売却価格が400万円以上の場合、以下の計算式で算出します。
仲介手数料=【(売却価格×3%)+6万円】×消費税 |
売却価格が3,000万円の場合、仲介手数料は105万6,000円になります。
仲介手数料は、決済時に一括で支払いますが、不動産会社によっては売買契約時に半金、決済時に残金を支払うケースもあるため、事前に確認しておきましょう。
M&Aによる手数料
M&Aによる売却を行う場合、専門業者に手数料を支払います。
料金形態は業者によって異なりますが、着手金や中間報酬、成功報酬などの費用が発生します。
その他の諸経費
仲介手数料の他に、物件によっては以下の手数料がかかるケースがあります。
- 解体費用・・・スケルトン物件にする場合
- 境界確定費用・・・土地の境界が不明確の場合に登記し直す手数料
- 立ち退き費用・・・店舗に入っている法人を退去させるための費用
上記の他にも物件によってかかる費用があるため、しっかり不動産会社にチェックしてもらいましょう。
譲渡所得税
店舗を売却して利益が発生した場合、譲渡所得税が課せられます。
譲渡所得税は、売却する不動産の所有期間5年を境に税率が異なります。また、単純に売却利益に課せられるわけではなく、過去にその物件を取得した費用などによっては非課税になるケースも多いです。
譲渡所得税は、不動産の売却時にかかる税金の中で非常に高額となるため、事前に専門家に計算してもらいましょう。
法人税
譲渡される資産の時価(売却価格)と簿価との差額に対し、法人税・地方税が課されます。法人税・地方税を合わせた実効税率は30%程度です。
印紙税
売買契約書に添付する印紙は、売買代金によって異なります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率(平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるもの) |
---|---|---|
500万円を超え1千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
印紙は、売主と買主が1分ずつ用意する必要がありますが、不動産会社が代わりに用意してくれる場合もあるため、事前に打合せしておきましょう。
店舗売却の注意点
ここでは店舗売却をする際の注意点を紹介します。
従業員への対応
店舗を売却するということは、そこで働く従業員が異動やリストラになることです。告知もなく売却してしまうと、従業員からの信頼もなくなり、最悪の場合は訴訟などにも発展しかねません。
その立地だからこそ働いている従業員もいらっしゃるため、必ず売却前に伝え、対応方法を考慮しておきましょう。
リース品・レンタル品の扱い
リース品やレンタル品がある場合、当然リース会社へ返却しなければいけません。リース解約する旨を伝え、違約金などを支払う必要があるため注意しましょう。
リースであることを忘れて解体してしまうと、損害賠償請求される恐れがあります。特に店舗で長く使っていたリース品は、自分の物と勘違いされる方も多いため、必ず確認しておきましょう。
借主との交渉
借主がいる店舗を売却する場合、オーナーが変わる旨を借主へ伝えておきましょう。
「急にオーナーが変わりました」と買主から借主へ伝えられても、驚いてしまいます。後々トラブルにならないためにも、借主へ売却意思を伝えておくことをおすすめします。