
ホテル売却の流れや方法を解説。ホテルや旅館は今が売りどき?

目次
観光業界が大きな変化を迎える中、多くのホテルや旅館のオーナーが売却を検討しています。需要と供給のバランス、経済状況、業界トレンドなど、様々な要因が売却の決断に影響を与えています。
このコラムでは、ホテル売却のプロセスと方法について詳しく解説し、現在の市場環境が売却に適しているかどうかを分析します。
ホテル・旅館業界の現状と動向
はじめに、ホテル・旅館業界の現状と動向現状と動向について確認していきましょう。
ホテル業界の現状
2021年、ホテル・旅館業界などの宿泊業は、新型コロナウイルスのダメージを大きく受けました。外出自粛などによる利用客の低下により、資金繰りが困難となり、倒産した企業も少なくありません。
以下の画像は、東京商工リサーチが発表した「2002年から2021年までの宿泊業の倒産件数と負債総額の推移」です。
2002年頃と比較すると、倒産件数は落ち着きがありますが、コロナが流行りだした2020年は年間118件もの企業が倒産しています。
2021年になると倒産件数は減少しましたが、その分資金繰りが困難となり、負債額も増えてることがわかります。
近年のホテルの動向
しかし、東京商工リサーチが2023年に行った 「旅行・宿泊業新設法人動向調査」によると、約8割の企業が今年度の業績は増収を見込むと回答しています。
新型コロナウイルスも落ち着きを見せ、国内旅行やインバウンド需要の回復が追い風となったためだと言われています。
2023年に新設された旅行・宿泊業の法人(以下、新設法人)は1,560社(前年比59.0%増)で、前年の981社から大幅に増加しました。
さらに、コロナ前の2019年より訪日外客数が1,464万人と、6.4%も上回っており、国内宿泊旅行単価も右肩上がりの状況です。
旅館・ホテル業界の直近の景況感は、6割の企業で「良い」と捉えているため、市況が好転している業界の一つといえるでしょう。
高値で売却できる可能性が高い
今や日本の経済を支えているといっても過言ではない「旅館・ホテル業界」は、今売却すれば高値で売れる可能性も高いです。
先程もお伝えした通り、新規法人が多く設立されており、販売単価も上昇傾向にあります。さらに、推計訪日外客数は過去最高の2019年(約3,188万人)を上回る勢いで推移しています。
そのため、M&Aによる事業譲渡も増加傾向にあり、高値で売却できる可能性も高いです。
宿泊業の新設法人は、東京都を始めとした関東が最も多いですが、コロナ前と比較すると東北の増加率が44%と最大です。
また北海道や長野などといったスノーリゾートは、外国人観光客からの人気も高く、官公庁は「スノーリゾート形成促進事業」として、スノーリゾート形成に向けて取り組む地域を支援していることも背景にあります。
つまり地域に偏りがなく、観光需要が取り込める場所であれば、より高値で売却できる可能性も高まるでしょう。
ホテル・旅館売却の方法
ここでは、ホテルの売却方法にはどのような方法があるのかを紹介します。
M&A(事業譲渡)による売却
M&Aによる売却とは、事業を第三者に譲渡し、代金を得る方法です。
M&Aには、「株式譲渡」と「事業譲渡」の2種類あります。
株式譲渡とは、過半数以上の株式を第三者に売却し、経営権を移行させる方法です。株主が変わるだけであり、権利や義務などに変化はありません。また、資産だけでなく、債券や債務なども承継されます。
事業譲渡とは、事業を第三者へ売却して対価として売却代金を得る方法です。引き継ぎたい資産・負債・契約などを細かく指定できるのが特徴です。
M&A(事業譲渡)による売却は、不動産も資産に含まれるため、売却価格が高まります。また、昨今のインバウンドの影響も大きく受けており、買い手側にも事情ごと買い取りしてしまうメリットも大きいため、需要の高い売却方法の一つです。
不動産としての売却
事業をすでに廃業されている方は、不動産を売却する方法もあります。先程もお伝えした通り、旅館・ホテル業界の直近の景況感は、良いと捉えている企業が多いです。
しかし、一から旅館・ホテル業を開業するとなると、多額の費用がかかります。建物が完成されていれば、ある程度リフォームするだけで済ませることができることでしょう。
つまり、開業のコストを抑えられるうえ、土地探しする手間もなくなり、建築する時間の短縮にもつながるため、不動産の売却も十分需要が高いです。
ホテル・旅館売却の流れ
ここでは、ホテル・旅館売却の流れについて紹介します。
M&A(事業譲渡)による売却の流れ
M&A(事業譲渡)による売却の流れは以下の手順で進めます。
- 専門家に相談
- 譲渡・売却先を選定
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 臨時株主総会での承認
- 最終契約書の締結
ひとつずつ紹介します。
専門家に相談
まずは、M&Aを扱う専門業者に相談を行います。手続きの手間を短縮できるだけでなく、スムーズに売却することが可能となるためです。
譲渡・売却先を選定
M&Aの専門家に依頼すれば譲渡・売却先の候補先を選定してもらえるので、その中から譲渡・売却先を決めます。
価格だけでなく、どのような方に事業譲渡したいのかなどを明確に決めておくことも大切です。
基本合意書の締結
譲渡・売却先を選定した後は、事業に関する資料などを買い手側に渡して確認してもらい、問題なければ基本合意書を締結します。
基本合意書とは、両社が事業譲渡に関して合意をしたことを表す意思表示のようなものです。(法的拘束力はありません)
デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは、企業監査のことを指します。売り手側の対象事業が多額の債務を抱えていたりするケースもあるために行いましょう。
基本合意までは、売り手側が作成した資料を基に買い手側が購入を検討します。資料の中に提示されていないトラブルが隠れている場合もあるため、しっかりデューデリジェンスを実施することが大切です。
臨時株主総会での承認
売り手側が全事業を売却する際や、買い手企業が売り手企業の全事業を譲り受けようとするときは、事業譲渡・事業売却を行う前に臨時株主総会を開催して特別決議を得なければなりません。
また、売り手企業が総資産の5分の1以上の事業を売却するときも同様です。
最終契約書の締結
最後に最終契約書を締結します。事業譲渡・事業売却では、対象事業の営業権のみ売買を行います。
不動産の売却
不動産を売却する際は、以下の手順で進めます。
- 不動産会社に相談
- 買付証明書の取得
- 売買契約の締結
- 決済・引き渡し
ひとつずつ紹介します。
不動産会社に相談
まずは、不動産会社へ相談します。ホテルや旅館の場合、地場の不動産会社より、ホテルなどの大型物件を扱う専門の不動産会社の方が、購入希望者を見つけられる可能性が高いです。
不動産会社に売却価格の査定を依頼し、相場観を把握しましょう。価格に納得できれば、後は広告を出してもらい、購入者を見つけてもらいましょう。
買付証明書の取得
購入意思があるという意思表示となる買付証明書を買主からもらいます。買付証明書には、希望購入価格や手付金、購入時期などが明記されています。
買主側の条件に合意できれば、買主へ売却意思があることを示した売渡証明書を渡します。
売買契約書の締結
買主と売主、不動産会社の3社が集まって売買契約書を締結します。契約時には買主から手付金をもらうことができますが、売買代金を受け取れないため注意しましょう。
一般的に、ホテルや旅館などの大きな金額となる不動産の購入は、金融機関のローンが用いられ、審査に売買契約書が必要です。そのため、売買契約書の締結から1か月前後で決済が行われます。
決済・引き渡し
決済では残りの売買代金を受け取り、所有権を買主へ移行して引き渡しが完了となります。