ホテル廃業の手続きや進め方を解説。建物の活用法も紹介

目次

近年、多くのホテルが廃業に追い込まれています。コロナ禍による観光需要の減少や後継者不足などが原因とされていますが、ホテル廃業の実情と背景について詳しく解説します。

また、廃業後の建物の活用方法などについても紹介します。

 

ホテル・旅館の廃業・倒産の現状

新型コロナウィルスが小康状態になったことで、国内観光客やインバウンド観光客の増加が期待されているところですが、新型コロナウィルスは国内のホテルや旅館に大きな影響を与えています。

全国のホテル・旅館の廃業や倒産についての現状を、資料を引用しながら紹介します。

 

全国のホテル・旅館の廃業件数の推移

日本全国のホテルや旅館の廃業件数に関する公的データは、厚生労働省が毎年度取りまとめ公表している「衛生行政報告例」によって確認することができます。

この報告には、ホテル、旅館、簡易宿泊所、下宿などの施設数及び営業廃止件数が含まれています。

下記の表は厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例」の概要から引用したものです。
「旅館・ホテル営業」をみると令和元年度をピークに年々減少傾向にあり、令和4年度では対前年比で0.4%の減少となっています。

また、少し古い資料ですが、帝国データバンクが2021年11月に公表した動向調査によると、観光関連事業者の休廃業が2020年から大きく増加しているとのことです。

ホテル・旅館は2021年1月から9月末までの間に143件休廃業しており、過去10年間での最多記録となっていました。

ホテル・旅館の休廃業ハイペース、前年既に超える 過去 10 年で最多更新

 

ホテル・旅館が廃業に至る原因と理由

このようにホテル・旅館が廃業にいたる原因や理由には様々な要因がありますが、主なものとして以下のことが考えられます。

  •  需要の減少と稼働率の低下
  •  競合施設の増加と価格競争の激化
  •  後継者問題と高齢化
  •  施設の老朽化と改修コストの負担

それぞれ詳しくみてみましょう。

 

需要の減少と稼働率の低下

ホテルや旅館が廃業に至る原因として、需要の減少と稼働率の低下は密接に関連しています。

新型コロナウィルス感染症の流行時には、旅行制限や外出規制により宿泊客が激減し、多くの宿泊施設が大きな影響を受けました。

2023年時点では、規制解除により旅行への需要が回復し、宿泊施設の利用者も増加していますが、反面人手不足や労働環境の問題が新たな課題として浮上しています。

 

競合施設の増加と価格競争の激化

ホテルや旅館が廃業に至る原因として、競合施設の増加と価格競争の激化は大きな要因です。

新規開業ホテルや民泊の参入が急増し、宿泊市場における競争が激化しています。これにより、既存のホテルや旅館は、新しい施設との競争に直面しています。

ホテルや旅館の経営を圧迫し、最終的には廃業に追い込まれるケースも少なくありません。

 

後継者問題と高齢化

ホテルや旅館が廃業に至る原因として、後継者問題と経営者の高齢化は深刻な問題です。

多くの中小企業や家族経営の宿泊施設では、経営者の子どもが後継者となることが一般的ですが、少子高齢化の影響で適切な後継者が見つからないケースが増えています。

特に地方の老舗旅館では、後継者がいないために廃業を余儀なくされる事例が見られます。

 

施設の老朽化と改修コストの負担

ホテルや旅館が廃業に至る原因として、施設の老朽化と改修コストの負担も大きな要因となっています。

長年の使用により、建物や設備が古くなり、快適性や安全性が低下し、顧客満足度が下がり、リピーターの減少や新規顧客の獲得が困難になることがあります。

しかし、老朽化した施設を改修するには、大きな投資が必要です。改修工事中は営業を停止しなければならない場合もあり、収入の損失につながることもあります。

 

問題への対策

人手不足などの要因は、ホテルや旅館の稼働率に直接影響を及ぼし、結果として廃業に至るケースも発生しています。

今後の業界の持続可能性を高めるためには、人手不足の解消、インバウンド需要の安定化、経済的要因への対応策などが重要となります。

また、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やダイナミックプライシングの導入など、業務効率化や収益最大化に向けた取り組みも求められています。

さらに、高齢化や後継者問題に対処するためには、以下のような対策が考えられます。事業承継計画の策定や外部人材の活用、M&Aによる経営資源の統合なども視野に入れつつ、事業の継続性を高めることも検討されています。

また、建物の改修費用に関しては、国や自治体からの補助金を活用して、改修費用の一部を補填するなども有効です。

 

ホテル廃業の手続きや費用について

窓口で女性に相談している画像

ホテルを廃業するにあたってはいろいろな届出や手続きが必要です。

廃業するときに必要な手続きや費用について解説します。

 

保健所への届出

保健所への届出が必要になり、具体的には以下のような手続きが求められます。

  1. 旅館業営業停止・廃止届の提出
    ホテルや旅館が営業を停止または廃業する場合、営業停止または廃業した日から10日以内に保健所長に届け出る必要があります。
  2. 届出書類の提出
    廃業届と開業時に取得した食品営業許可証などの書類を提出します。提出方法は、指定機関(保健所)への持参または郵送となりますが、地域によっては郵送での受付を行っていない場合もあるため、事前に確認しましょう。

提出方法は、指定機関(保健所)への持参または郵送となりますが、地域によっては郵送での受付を行っていない場合もあるため、事前に確認しましょう。

これらの手続きは、ホテルの廃業を正式に行政に通知し、必要な法的手続きを完了させるために不可欠です。

なお、保健所への届出にかかる手数料については、通常手数料は不要です。廃業に際しては、これらの行政手続きに加えて、税務署や法務局など他の関連機関への届出も必要になることがありますので、専門家に相談することをお勧めします。

 

税務署などへの届出

ホテルの廃業に際しては、保健所への届出以外にもいくつかの行政手続きが必要です。

主要な手続きは以下の通りです。

  1. 税務署への廃業届の提出
    廃業する際には、税務署へ廃業届を提出する必要があります。これにより、事業の終了を正式に通知し、必要な税務処理を行います。
  2. 都道府県税事務所への届出
    管轄の都道府県税事務所にも廃業に関する届出を行う必要があります。届出の様式や名称、提出期限は都道府県によって異なるため、事前に確認が必要です。
  3. 労働保険の手続き
    労働保険に加入している場合は、廃業日の翌日から50日以内に労働基準監督署への届出が必要です。
  4. その他の届出
    開業時に警察署や消防署へ届け出をしていた場合は、それらの廃止届を提出する必要があります。例えば、防火管理者の解任届出書の提出などが含まれます。

 

法務局への届出

ホテル・旅館の経営を法人が行い、法人が廃業する場合には法務局での解散登記、会社の財産の清算手続きが必要です。

  1. 解散登記
    ホテルを運営する法人が廃業する場合、まず解散登記を行う必要があります。これには、登録免許税として30,000円が必要です。同時に清算人の就任登記を申請するため別に9,000円の登録免許税が必要になります。
  2. 清算手続き
    解散登記後は、会社財産の清算手続きを行います。清算手続きでは、ホテルの資産を売却し、債権者への支払いを行い、残った資産を株主に分配します。
    清算開始は官報で公告することになりますが、官報への公告費用として5万円程度かかることが一般的です。
  3. 清算結了登記
    最終的に清算が完了したら、清算結了登記を行います。これには2,000円の費用が必要です。

以上の手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、その手数料が別途必要になります。

また、ホテルの物件や設備の処分に関する費用も考慮する必要があります。廃業には多くの手続きと費用が伴うため、計画的に進めることが重要です。

具体的な手続きや費用については、専門家に相談することをお勧めします。

 

廃業後の建物の活用方法

ホテルや旅館を廃業した後に残る建物は、どのようにすればよいのか、転用事例などの活用例を検討しておきましょう。

 

他業種への転用事例

ホテルの廃業後に建物を他業種へ転用する事例はいくつかあります。

たとえば、建物を全面的にリノベーションし、フィットネス専用個室やロウリュウサウナを設置した施設としてリニューアルオープンしたケースがあります。

また、大分県のホテルの事例では、閉館後、市営のスポーツ施設や医師会の検診センターとして活用される計画なども立ち上がっています。

ホテルの廃業後の建物は、住宅、オフィス、公共施設、医療施設など、さまざまな用途に転用される可能性があります。

廃業したホテルの建物を活用することで、新たな価値を生み出し、地域経済に貢献することが期待されます。

ただし、転用には適切な計画と投資が必要であり、市場の需要や法規制などを考慮する必要があります。具体的な転用計画については、不動産専門家や建築家と相談することをお勧めします。

 

解体・更地化の事例

ホテル廃業後の建物を解体し、更地化した事例については、以下のようなケースがあります。

  • 閉館後の跡地再開発
    東京のホテルグランドパレスは、閉館後の跡地に複合ビルを建設する計画が進行中です。
  • 閉館後の住宅分譲地への転換
    宇都宮グランドホテルは、閉館後、跡地が戸建て分譲会社によって住宅分譲地として再開発されることになりました。

これらの事例は、廃業後のホテルの建物が解体され、その土地が新たな目的で活用されることを示しています。

解体後の更地化は、新しい開発のための準備段階として重要であり、地域の再開発や新たなビジネスチャンスを生み出す機会となります。

 

物件売却

ホテルや旅館を廃業する機会に物件を売却する方法もあります。

売却を検討する際は、不動産会社をはじめとした専門家に相談をおすすめします。

住宅やマンションといった一般的な不動産とは異なり、ホテルの売却には専門的な知識やノウハウが必要です。ホテルの取引実績が豊富な不動産会社に、価格の査定や売却方法を相談し、スムーズなホテル売却を進めましょう。

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