法人の不動産を売却すると税金はいくら?個人との違いと今からできる節税対策

目次

法人の不動産売却時の税金は、個人以上に高額になる可能性があります。その差額は数百万円から数千万円に及ぶこともあるため、経営者にとってどれだけ税負担を軽減できるかどうかは大きな課題です。

法人特有の税金計算方法や、個人との課税の違い、今すぐ始められる効果的な節税対策を把握して、将来の財務戦略に役立てましょう。

 

法人の不動産売却における税金軽減の仕組み

法人が不動産売却をする場合、個人とは異なる計算方法で課税されます。また、個人では利用できない方法での税金軽減も可能です。

法人の不動産売却における課税と税金軽減の仕組みについて解説します。

 

不動産売却益は他の事業所得と合算して課税

不動産売却益にかかる税金の種類とその課税方法をまとめると、法人と個人で以下のような違いがあります。

不動産売却益にかかる税金の種類とその課税方法

 

不動産の所有者 科される税金 課税方法
法人
  • 法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税
  • 地方法人税
  • (建物にかかる)消費税
  • 他の所得と合算して課税される
個人
  • 譲渡所得税
  • 他の所得とは別に課税される
  • 不動産譲渡損益間のみ損益通算が可能

※不動産利益にかかる税金のみです。印紙税や仲介手数料にかかる消費税などは記載していません。

上記の表について、以下で詳しく解説します。

 

売却益は別事業との損益通算が可能

法人の不動産売却における売却益は、会社として得たすべての利益と合算して計算します。

たとえば不動産の売却益が1億円、事業所得が2億円の場合、両方の合算である3億円に対して法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税が発生します。

また、損失が発生している場合は損益通算が可能です。損益通算は、同一年に発生した利益と損失を相殺する仕組みです。

たとえば不動産の売却益が1億円、事業損失が1,000万円の場合、双方の利益と損失を相殺した9,000万円が課税対象です。

なお、個人の場合は不動産の売却損を給与所得や不動産所得などと損益通算はできません。唯一、不動産の売却益とのみ損益通算が可能です。

たとえば同一年において、不動産Aの売却益が2,000万円、不動産Bの売却損が1,000万円であった場合、差額である1,000万円に対して税が課せられます。

 

法人の利益には4種類の税金がかかる

法人特有の税金として法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税の4種が挙げられます。

それぞれの税金の内容と税率は以下のとおりです。

法人特有の税金内訳

 

税金の種類 内容 税率
法人税 法人の事業活動による所得に対して課税される国税 15~23.2%

※平成4年4月1日以降開業の場合

法人事業税 法人の事業活動による所得に対して課税される地方税 資本金や事業の種類、所得の大きさなどで異なる
法人住民税 法人の事業所が納める地方税 自治体によって異なる
地方法人税 地域間の経済格差をなくすことを目的に、2014年に創設された国税 法人税×10.3%

※税率は2024年度のものです。

 

中小法人なら、所得金額のうち800万円以下の部分は軽減税率が適用

資本金1億円以下の中小法人は、法人税において軽減税率が適用されます。

資本金1億円以下の中小法人が支払う内訳

 

区分 税率
資本金1億年以下の普通法人など 年800万円以下の部分 15%
年800万円超の部分 23.20%
適用除外事業者 19%
上記以外の法人 23.20%

※開始事業年度2022年4月1日以降
※参考:国税庁 法人税の税率

法人税が低くなると、それだけ地方法人税も安くなります。そのため、中小法人は二重に軽減税率が適用されると考えてよいでしょう。

 

長期所有後の売却税率は個人のほうが低い

会社内で売却について相談しているイメージ画像

個人が不動産を売却した場合、売却益には譲渡所得税がかかります。譲渡所得税は所有期間によって異なります。

不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下であれば「短期譲渡所得」、5年超であれば「長期譲渡所得」となり、それぞれの税率は以下のとおりです。

個人の不動産売却益にかかる税率

 

所得税(%) 復興特別所得税(%) 住民税(%) 計(%)
短期譲渡所得 30 0.63 9 39.63
長期譲渡所得 15 0.315 5 20.315

法人税率が15~23.20%、それに加えて種々の法人に関わる税金がかかることを考えると、5年超の長期所有の場合は、個人のほうが税率は低くなると考えて良いでしょう。

 

法人の場合は消費税がかかる

法人と個人の不動産売却における課税について、もう一点大きく異なる点があります。
それは「法人の不動産売却には消費税がかかる」ということです。

消費税は事業者が事業として国内取引を行った際に、国に対して納める税金です。

一般消費者が商品やサービスを購入する際に事業者に支払い、事業者が納税します。
個人が不動産を売却するのは事業取引には当たらないため、消費税はかかりません。

しかし、法人の場合は取引と見なされて消費税を納める義務が生じるのです。なお、消費税がかかるのは建物のみとなっており、土地は消費税非課税となっています。

 

法人(株式)そのものを売却したほうが手取りは増える可能性

法人が不動産を売却する場合、不動産を所有している法人(株式)そのものを売却する、すなわち「不動産M&A」もひとつの選択肢です。

不動産M&Aを選択することで、手取り額が増える可能性があります。そのスキームは以下の通りです。

通常、不動産売却時の売却益は、法人税だけで15~29.20%程度かかります。さらに売却益を個人株主に配当する場合、配当所得は総合課税の対象となり、最大55%(所得税45%+住民税10%)の税金が課されます。

つまり二重に税金がかかり、手取りが少なくなってしまうわけです。

一方、M&Aを選択すると、不動産売却ではなく株式譲渡と見なされます。そのため、該当する取引にかかる税金は株式譲渡益に対する課税(税率20.315%の申告分離課税)で完結し、8割もの手取りになります。

ただし、M&Aを選択すれば必ず手取りが多くなるわけではありません。

まず、M&Aには高度な専門知識が必要になるため、M&Aの仲介会社に依頼する必要があります。仲介会社に支払う手数料がかさむと、予想より手取りが少なくなってしまいかねません。

加えて、売り手側が偶発債務を抱えている場合は、譲渡対価が低く抑えられます。その結果、手取り額が通常の売却と変わらないケースもあります。

不動産M&Aで節税効果を狙うあまりにかえってリスクを負う結果にもなりかねませんので、通常通り売却するか、不動産M&Aを選択するか、慎重に検討する必要があるでしょう。

 

今からできる法人の不動産売却でできる節税対策

法人における不動産売却益は、他の損失と相殺できます。この仕組みを生かして節税が可能です。売却時にできる節税対策を4点ご紹介します。

 

役員などへは時価よりも低い金額で売却しない

会社が役員に対し、不動産を時価より著しく低額で譲渡した場合、法人・役員双方に税務上のリスクが生じる危険性があります。

例として、以下のケースで考えてみましょう。

  • 不動産取得価額:2億円
  • 不動産時価:2億円
    ※役員に5,000万円で売却(事前届け出なし)

この場合、2億円で取得した不動産を5,000万円で売却するわけですから、1億5,000万円の売却損として計算できるはずです。

しかし、低額譲渡の場合は取得価額-時価が売却損益です。つまり、売却損益がない(0円)ということです。

また、本来2億円の価値のある不動産を5,000万円という低額で役員へ売却することは、役員に対する1億5,000万円の賞与と見なされます。

役員に対して支給した賞与を法人税の計算上、損金に算入するには、事業年度開始からおおむね3カ月以内に届出をしなくてはなりません。

届出をせずに低額譲渡をした場合、損失として計上できません。よって上記のケースでは、実際には1億5,000万円もの損失が出たにも関わらず、売却損も役員賞与も計上できず、税金が高くなってしまう結果となりました。

また、役員側として1億5,000万円は賞与扱いとなり、所得税がかかります。

このように、低額譲渡は法人・役員双方において税負担を増やしてしまうことになるのです。

税負担増のリスクを回避するには、適正とされる金額で譲渡する必要があります。

 

利益の確定日は売買契約締結日に変更できる

不動産売却における利益の確定日(売却日)は、原則として「不動産の引き渡し日」ですが、売買契約の締結日に変更も可能です。

契約締結日と引き渡し日で年をまたぐ場合は、より節税効果の高い年を利益確定日に設定すると良いでしょう。

ただし、土地のみの売買では「代金の約50%を収受した日」もしくは「所有権移転登記申請日」のうち、いずれか早いほうが利益の確定日となります。

 

利益分は投資にまわす

不動産売却によって得た利益を投資にまわすことで利益を下げ、節税するという方法も有効です。

パソコンや社用車など手配しやすい設備であれば、同一年度内に準備できるでしょう。

また、中小企業においては「中小企業投資促進税制」を利用すると、より節税が望めます。

中小企業投資促進税制は対象となる設備を購入した際、取得価額の30%の特別償却もしくは7%の所得控除が適用されるものです。

適用期限は2024年度末(2025年3月末)となっていますので、早めに準備しておきましょう。

 

利益を役職員への退職金にまわす方法もある

不動産の売却益を役員への退職金へまわすのも、ひとつの選択肢です。

役職員に支払った退職金は損金に算入されるため、損益通算による税金圧縮が可能になるためです。

退職金支給のメリットとして、受け取った側の税負担が少ないという点が挙げられます。
退職所得の課税対象額は以下のように計算されます。

(退職金ー退職所得控除額)×1/2=退職所得
※退職所得控除額:勤続年数20年以下 40万円×勤続年数、20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

たとえば、勤続年数が40年である場合、退職所得控除は
800万円+70万円×(40年-20年)=2,200万円です。

退職金の支給額が2,500万円である場合、課税対象は(2,500万円-2,200万円)×1/2=150万円です。

2,500万円のうち、課税対象となるのは6%に当たる150万円のみと、非常に税負担が低いことがわかります。

利益を役職員への退職金にすることで、法人・役職員双方において税負担軽減が可能です。

 

まとめ

法人が不動産を売却する際には、タイミングを見計らうことが重要です。

売却損が生じる場合は事業所得と相殺して法人税を減らす、売却益が出る場合は設備投資や退職金に資金をまわすなど、事業全体のバランスを見て適切な方法で売却することで、節税が可能です。

また、役員に譲渡する際には、時価に沿って売却額を設定しなければなりません。低額譲渡してしまうと、かえって税負担が高くなってしまう危険性があります。

まずは信頼できる不動産会社に相談すると良いでしょう。

法人の不動産売却に詳しい不動産会社であれば、不動産の適正価額を算出するだけではなく、売却のタイミングや節税法についてもアドバイスをしてくれるでしょう。

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