はじめまして、
本日はお招きいただきありがとうございます。
こちらこそ、村山さんの著書は拝読させていただきましたが、こうして実際にお会いできて光栄です。
お読みいただき、ありがとうございます。今日は対談ではありますが、最初はインプットも兼ねて、私が普段研修でお話ししている内容をご説明させてください。
まず、働く現場で起こっていることをお話しします。私はいつも働く人を樹に例えていまして、枝葉が個人のスキルで、幹が大もとの力。根っこを仕事観や価値観として、私は根っこを作る研修を主に行っています。
企業はどうしても、花や実の業務成果を効率的に求めがちです。一方で幹や根っこはほったらかしで、結果、枝葉もあまり振るわない、という状態になってしまう。また、樹が育つには、陽の光である目的や志も浴びさせないといけません。今回、御社は太陽となる理念をつくられたと伺って、根っこからしっかり手を入れたのかなと思いました。
研修の際「忙しい」という話をよく伺います。ただ、忙しさと成長は、実はつながっていません。忙しいだけの会社は存続しない。『怠惰な多忙』という言葉がありまして、多忙だけれど、自身を成長させることには怠惰であるということ。これは、現代のビジネス現場にも言えることだと思います。
ノーベル経済学者のハーバード・A・サイモンは、定型の処理的な仕事で成果を上げれば、答えのない創造的なリスクを負う仕事は誰もしたがらないと言います。組織が、定型のものにばかりに流れ、魂がやりたがっている仕事は駆逐されていくという。
時間管理のマトリックスという有名な図があります。忙しさの中身として『重要かつ緊急』の第一領域の仕事で日々が埋まり、数年経っても成長はなかったという話もあります。一方で『重要だけど緊急でない』第二領域の仕事は、自己開発や自己研鑽、人が育つ仕組みを作っていくことです。御社の理念策定の取り組みも、第二領域に着手したからこそ、できたことだと思いました。
村山さん、ご説明ありがとうございます。私は2019年に仲介営業部長の役に就いたのですが、その12年前に仲介を離れていました。辞令を受けた当時、仲介事業は高い目標に向けて頑張ってはいましたが、毎年未達が続き、収支も赤字が続く状況。そんな中でなぜ私が選ばれたのかを考えたとき、仲介に浸かりきっていない私の視点が必要なのでは、と考えました。
少し話が戻りますが、私は、仲介に戻る前に分譲事業の方で、品質管理とアフターサービスの仕事をしていました。お客様宅を訪問している担当者からの話を聞くと、日々の雑事に困っているお客様が多いことに気がつき、便利屋事業をFCで立ち上げたんですね。人材も「困っている人を助けたい」という気持ちを持った方々が集まってくれ、最初はお客様の評判も良く、売上も順調に上がりました。けれど、ある時から急に業績が悪化し、お客様からのアンケート結果も悪くなってしまったのです。
ご依頼に対して1時間いくらという形で仕事をお受けするのですが、リピートしていただくために丁寧に仕事をする。そうすると、時間内に仕事が終わらない。でも、次のお客様とのお約束がある。仕事が終わっていないにもかかわらず、途中で次のお客様のところに向かってしまう。これでは、業績もアンケート結果も悪くなってしまうのは当たり前でした。この事態に、私は「もう一度原点に立ち返って、なぜ我々が便利屋という仕事を立ち上げたのかを考え、言葉にしよう」と声をかけました。3ヶ月程度、仕事の後にみんなで集まり話をして、たどり着いたのが「困っている人を助けたい」という想いでした。最終的にあるメンバーが『あなたに笑顔を届けます。心に感動を届けます。』という言葉を考えてくれて、毎日の朝礼時にみんなで復唱してから仕事に向かうようにしたんです。すると、またお客様の評判も良くなり、売上も上がった。その成功体験が私の中にありました。
だからこそ仲介事業でも、160名全員が向かっていける理念が必要だと感じました。当時の仲介事業には、売上しか目標がなかったので、その上に「何のために仕事をするのか」という旗を立てなくてはいけない。売り上げ目標はあくまでも社内的なことであり、「なぜ小田急を選ぶのか」という理由がないと、お客様のご支持にはつながらないし、売上にも結びつかないと考えました。一見、遠回りのように見えますが、絶対にこれが近道だと思い、全店舗を回って話をし、21名のメンバーを選び『小田急のミライプロジェクト』と名付けて理念づくりをスタートしました。
なるほど。お話にあったように、目標はあくまで目指す数字であり、目的は最終的な意味。目的の方が、包括的で上位の概念なんですね。目的から「やる意味がある」と思えれば、内発的動機から目標に向かっていけます。けれど、目標が目的化すると、いつまでこの目標を追いかけるんだろう、と疲弊してしまう。私も「坂の上に太陽(=大いなる目的)を昇らせていますか」という話をしています。