不動産売却のノウハウ

マンションを売却する際、購入時よりも低い価格になるケースは決して珍しくありません。しかし、事前の準備と正しい知識があれば損失を最小限に抑えられます。
マンション売却で損が生じる理由から実践的な対策、さらには損失が出た場合の税制優遇措置まで、売却成功のポイントを解説します。
不動産お役立ちコラム 不動産売却2026年9月25日
そもそもマンション売却で「損」が発生するとはどういった状況なのでしょうか。
まずは、マンション売却における損の考え方と、なぜ損が発生するのかについて紹介します。
マンション売却における「損」とは、購入時の費用総額よりも売却時の手取り額が下回る状態を指します。
具体的には、次のような金額を合算して判断します。
これらを合計した取得コストと、売却価格(または手取り額)を比較して損益を判断します。
税制上は「譲渡損失」と呼ばれ、
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除額
の計算結果がマイナスとなる場合を指します。
参考:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
マンション価格を構成する重要な要素のひとつが「築年数」です。
一般的に、土地の価値は比較的安定していますが、建物部分は経年により価値が変動します。これは以下のような要因によるものです。
築浅物件は高値で取引されやすく、築年数の経過とともに価格帯が形成されていく傾向が見られます。
ただし近年は、特に都市部において中古マンション価格が上昇傾向にあります。そのため、
といったケースも実際に存在します。
つまり、「築年数=必ず値下がり」という単純な構図ではなく、築年数はあくまで価格を構成する一要素に過ぎません。
マンション価格を左右する主な要素は、
の3つです。
立地については、駅距離、周辺施設、生活利便性、将来の再開発計画などが価格に直結します。同じ築年数でも、エリアによって価格差は大きくなります。
市況については、金融政策、金利動向、人口動態、経済情勢などが影響します。近年は低金利環境や都心部への需要集中などを背景に価格上昇が続いてきましたが、市況は常に変動するため、今後も同じ水準が続くとは限りません。
そのため、売却タイミングによっては「想定より高く売れる」場合もあれば、「思ったより伸びない」ケースもあります。
売却時に問題となりやすいのが「オーバーローン」の状態です。オーバーローンとは、マンションの売却価格が住宅ローンの残債を下回っている状態を指します。この場合、売却代金だけではローンを完済できないため、不足分を自己資金で補填しなければなりません。
特に、購入時に借入額が大きかった場合や頭金が少なかった場合、返済開始から間もないタイミングで売却する場合などは、元金があまり減っていないためオーバーローンになりやすい傾向があります。また、市況が下落局面にある場合や、購入時より相場が伸び悩んでいるエリアでは、想定より売却価格が上がらず残債を下回る可能性もあります。
たとえ市場全体が上昇傾向にあったとしても、個別の物件条件やローン残高の状況によっては実質的な損失が発生することがあるため、売却前には残債と想定売却価格のバランスを慎重に確認することが重要です。
現在のように中古マンション価格が上昇している局面であっても、必ずしも売却益が出るとは限りません。売却時の損益は単純な「購入価格と売却価格の差額」だけで決まるものではないからです。
まず、購入時には物件価格のほかに仲介手数料や登記費用、住宅ローン関連費用などの諸費用が発生しています。これらを含めた総取得額で考えると、売却価格が購入価格を上回っていても、実際には利益が出ていないケースがあります。
また、税務上は「減価償却」の考え方も影響します。建物部分は、居住用であっても税務上は法定耐用年数に基づき減価償却相当額を計算し、取得費から控除します。その結果、帳簿上の取得費が想定より小さくなり、売却価格がそれほど高くなくても譲渡所得が発生する場合があります。つまり、体感的には「ほとんど利益が出ていない」と感じていても、税務上は課税対象になることがあるのです。
さらに、先出の住宅ローンの残債の影響や、エリアや物件条件によって物件価格に差があるため、期待ほど売却額が伸びないケースも見られます。
このように、価格上昇局面であっても、諸費用、減価償却、ローン残債、エリア特性などを総合的に考慮しなければ、実際の損益は正確に判断できません。売却を検討する際は、「相場が上がっているかどうか」だけでなく、「最終的な手取り額と税負担まで含めた実質的な損益」を確認することが重要です。
損失を最小限に抑えるには、売却活動開始前の準備が極めて重要です。
相場を知らずに売却活動を始めることは、損失を発生させる大きな原因になります。まずは取引価格データを確認できる国土交通省の「不動産情報ライブラリ」や、東日本不動産流通機構の「レインズマーケットインフォメーション」で成約価格情報を閲覧するなどして、自身のマンションの売却相場を把握しましょう。
査定価格は必ずしも売却価格と一致せず、この認識のずれが売却活動の長期化や損拡大につながります。一部の不動産会社は媒介契約獲得のため意図的に高めの査定額を提示し、契約後に値下げを提案する手法をとることがあります。
査定価格の妥当性判断には、査定根拠の詳細説明を求め、取引事例や価格算定ロジックを確認することが不可欠です。「3カ月以内に確実に売却できる価格」と「運が良ければ売れる価格」というような複数の価格を提案してもらうことで、現実的な価格戦略を立てられます。
売り出し価格の設定は売却の成否を左右します。おすすめは「実際に売却したい価格」に値下げ交渉の余地を加えた金額に設定することです。中古マンションの売買では値下げ交渉前提として取引が進むケースも多いため、希望価格ぴったりで売り出すと希望を下回る可能性が高まります。ただし相場から大きく乖離した高値設定は避けるべきです。

売却活動開始後も市場の反応を的確に読み取り、柔軟に戦略を調整していくことが求められます。
市場反応が薄い場合、値下げのタイミングと幅の設定が重要です。一般的には、売り出し後2~3週間反応が乏しい場合は価格設定が市場相場から乖離している可能性が高く、価格を再検討するケースが多いです。
値下げ幅は一般的に売り出し価格の5~10%程度が目安です。1~2%程度の小幅値下げでは市場へのインパクトが弱く、15%を超える大幅値下げは「何か問題があるのでは」という疑念を持たれるリスクがあります。段階的な値下げが効果的で、市場の反応を見ながら複数回に分けて調整することで、各価格帯の購入検討者にアプローチできます。
売却期間の長期化は様々なデメリットがあります。時間経過とともに物件の「鮮度」が落ち、「売れ残り物件」として認識されやすくなります。
また売却期間中も固定資産税、管理費、修繕積立金などの維持費用が継続的に発生します。売却期間が半年延びるだけでも、管理費や修繕積立金、固定資産税などで数十万円規模の追加コストが発生する可能性があります。
不動産会社選択は売却の成否を左右します。第一のポイントは該当エリアでの売却実績です。全国規模の大手が必ずしもベストとは限らず、地域密着型の会社が地元購入検討者ネットワークを持つケースもあります。
次に重要なのが担当者の専門性とコミュニケーション能力です。税制や法律、市場動向に精通し、売却活動の進捗を定期的に報告してくれる担当者を選びましょう。
譲渡損失が発生した場合でも、適切な税制特例活用で所得税や住民税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
一定の条件を満たせば、マンション売却の損失を「税金軽減」という形で取り戻すことが可能です。
通常、不動産売却で生じた譲渡損失は他の所得と損益通算できません。しかしマイホーム売却については特例が設けられており、一定要件を満たせば譲渡損失を給与所得や事業所得などから差し引けます。年間の課税所得が減少し、所得税や住民税の負担が軽減される仕組みです。さらに1年間で控除しきれなかった譲渡損失は、翌年以降最大3年間繰り越して控除可能です。
参考:国税庁「No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」
損益通算とは異なる種類の所得の黒字と赤字を相殺する制度です。例えば年間給与所得800万円の会社員がマンション売却で1,000万円の譲渡損失が発生した場合、特例要件を満たせば800万円の給与所得から1,000万円の譲渡損失を差し引き、その年の課税所得はゼロとなります。
課税所得がゼロになることで、既に給与から源泉徴収されていた所得税が全額還付され、翌年度の住民税もゼロまたは大幅減額されます。残った200万円は翌年以降に繰り越して控除できます。
譲渡損失を他の所得と相殺できるのは以下の2つのケースです。
第一は「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。マイホームを売却して新たなマイホームを購入(買換え)する際、売却により譲渡損失が生じた場合に適用できます。主な要件は自己居住用物件であること、所有期間が売却年1月1日時点で5年超、買換え先が床面積50平方メートル以上、買換え先について償還期間10年以上の住宅ローンを組むこと、などです。
第二は「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。住宅ローンが残っているマイホームを、ローン残高を下回る価格で売却した場合に適用でき、買換えを伴わない売却でも利用可能です。この特例では損益通算できる譲渡損失の金額に上限があり、「売却時の住宅ローン残高-売却価格」と「実際の譲渡損失」のいずれか少ない方が対象となります。
譲渡損失の税制特例活用には、確定申告が必須です。
マンション売却で譲渡損失が発生しただけでは、原則として確定申告は不要です。譲渡所得がマイナスの場合、課税所得が存在しないため申告義務が生じません。
しかし損益通算や繰越控除の特例を受けるには確定申告が必須です。確定申告をしなければ節税メリットを一切享受できません。
例えば給与所得500万円でマンション売却の譲渡損失1,000万円が発生したケースで、確定申告をしなければ給与所得500万円に通常通り課税されます。しかし特例要件を満たして確定申告すれば、500万円の給与所得と相殺されて課税所得がゼロとなり、既に源泉徴収されていた所得税が全額還付されます。
譲渡損失が発生し特例要件を満たす場合は、申告義務の有無にかかわらず、積極的に確定申告を行うべきです。
譲渡損失の特例を受けるための確定申告は、売却年の翌年2月16日から3月15日までに行います。税務署窓口のほか、e-Tax(電子申告)も利用可能です。国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで自動的に税額計算が行われます。
特例適用時は通常の確定申告書に加え、「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書」などを添付する必要があります。これらの様式は国税庁ウェブサイトからダウンロードできます。
繰越控除を適用する2年目以降も毎年確定申告が必要です。手続きが複雑で不安がある場合は、税理士への相談も一つの選択肢です。
譲渡損失の特例を受けるための確定申告には、通常の書類に加え様々な証明書類が必要です。
基本となるのが確定申告書(第一表・第二表・第三表)と譲渡所得の内訳書です。次に「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書」が必要です。
売却物件に関しては登記事項証明書(登記簿謄本)と売買契約書の写しが必須です。「特定居住用財産の譲渡損失」の特例適用時は住宅ローンの残高証明書が必要です。
「買換え等の場合」の特例適用時は、新居の登記事項証明書、売買契約書の写し、住宅ローンの残高証明書なども必要になります。
これらの書類を事前に準備しておくことで、スムーズに確定申告を行えます。金融機関からの証明書発行には時間がかかることもあるため、余裕を持った準備が推奨されます。
マンション売却で損失が発生することは決して珍しくありません。しかし事前の適切な準備、売却活動中の戦略的判断、そして売却後の税制特例活用により、損失を最小限に抑えることが可能です。特に譲渡損失の損益通算と繰越控除の制度は大きな節税効果をもたらす可能性があるため、要件を満たす場合は必ず確定申告を行い、制度を活用することをお勧めします。