不動産売却のノウハウ
建物を建てる目的で借りた土地を借地、そして地代を支払うことによって契約期間中はその土地を利用できる権利を「借地権」と呼びます。
この「借地権」は財産のひとつとみなされ、土地を借りている本人が亡くなった後は、配偶者や子供が相続します。
通常の譲渡であれば地主の許可が必要ですが、相続の場合は地主の許可は必要ありません。しかし、近年、この借地権の相続を放棄したいという相談が急増しています。なぜでしょうか。
2022年1月6日
なぜ借地権の相続を放棄したい人が増えているのでしょうか。
まずは、借地権の相続を放棄する理由やその流れについて解説します。
相続放棄を希望する主な理由は、「費用の負担がある」ことです。
どのような負担があるのか、具体的に見ていきましょう。
借地権は「土地を利用する権利」であり、財産のひとつとみなされます。そのため、当然ながら相続税の課税対象です。
税額は自用地の評価額(所有権の場合の評価額)に借地権割合(地域によって異なる)を乗じて評価額を算出します。
借地権割合は利便性の高いエリアであるほど高くなるため、立地条件の良い借地ほど相続税評価額は高いです。
また、借地上の建物は所有権があるため、これにも相続税が発生します。
借地権の契約では、契約時に権利金を支払うほか、底地の使用料として毎月地代を支払います。
相続人にもその契約は引き継がれるため、たとえ住まなくても地代を支払う必要があります。
借地権の残存期間が長い場合は、多額の出費になってしまいます。
借地権は土地を借りる権利であり、土地を所有しているのは地主ですから、土地の固定資産税はかかりません。
しかし、借地上に建てられた建物が法定耐用年数を超えていない場合、固定資産税の課税対象です。
借地権と建物を相続した場合、当然建物の管理費やメンテナンス費用などの維持費がかかります。
また、借地権の種類が「定期借地権」である場合、存続期間は50年以上ですが、契約の更新ができません。
期間満了後は土地を更地の状態で地主に返還しなければならないため、建物の解体費用が発生します。
相続人が借地権を相続したくないという場合、相続を放棄することが可能です。
相続が開始されたことを知ってから3カ月以内に、家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出し、受理されればそこで相続放棄の手続きは完了します。
ただし、相続放棄は「すべての遺産」について行うものです。「ほかの財産(現金や有価証券など)は相続したいが、借地権だけを放棄したい」ということは認められないため、注意が必要です。
相続放棄する場合、借地権に付随する義務(租税や地代の支払いなど)はすべて放棄できます。
そのため、借地権に付随する「期間満了後の更地返還の義務」も負わなくてよいため、建物を解体して更地にする必要はありません。
借地権の相続を放棄するプラスな点とマイナスな点の両方を知ってから、相続放棄を検討しましょう。何も知らずに放棄してしまっては、予想外に損をしてしまうかもしれません。
借地権を相続放棄するメリットは、費用の負担を減らせるだけではありません。
借地権を放棄することで、地代や相続税、建物の固定資産税や解体費用などを負担しなくてよくなります。
借地上の建物に相続人が住まない場合、その建物は空き家となります。
建物は定期的な換気やメンテナンスを行わなければ老朽化していくため、維持するだけでも手間やコストがかかります。しかし、相続放棄することでそういった苦労から解放されます。
再開発によって周辺地価が高騰した場合、地代などをめぐって地主とトラブルになる可能性があります。
また、相続人が複数いる場合は、発生した費用を誰が負担するかなどについて相続人同士でトラブルになることもあります。
相続放棄することで、そのようなトラブルを回避できます。
借地権の相続を放棄すると、さまざまな手間から解放されますが、その反面デメリットもあります。
相続放棄をする場合、借地権だけを放棄するということができません。そのため、現金や有価証券などほかの財産も相続できません。
借地権は地主の許可を得て第三者に売却することが可能です。
また、借地上の建物を賃貸に出して家賃収入を得ることもできます。
相続放棄してしまうと、そのような利益を得られなくなります。
借地権を相続放棄する手続きは、相続が開始されたことを知ってから3カ月以内に行わなければなりません。
期限を過ぎると放棄が認められないため、注意が必要です。
借地権の相続放棄をするかどうかは「相続財産の全体像」と「相続放棄によって解放される負担」のバランスで決まってくるでしょう。借地権以外の財産を相続したい場合など、相続放棄以外の選択肢について解説します。
借地権上の建物をリフォームしたり、建て替えたりして賃貸に転用することで、家賃収入を得ることができます。
ただし、リフォームや建て替えにはまとまった費用が発生します。
さらに、定期借地権の場合は期間満了後に建物を取り壊して更地返還しなければならないことを踏まえておきましょう。
借地権は、地主の許可があれば第三者に譲渡することが可能です。
ただし、残存期間によっては住宅ローンが使いにくいなどの理由で、一般個人への売却は難しいのが現状です。
借地権の売却にあたっては、よくカップ&ソーサーに例えられます。
借地権はコーヒーカップ、地主が持っている底地権はソーサーに例えられます。これらは、別々で売却するよりもセットで売却する方が有利です。
残存期間の短い借地権は、住宅ローンが使いにくいなどの理由で一般個人への売却は難しいといわれています。しかし、底地権と借地権をセットで売却することで、買主にとっては完全な所有権(カップ&ソーサー)となるため、売却は容易といわれています。
この場合、地主と借地権者が共同で売り出します。
借地権を地主に買い取ってもらう方法で、カップ&ソーサーのカップをソーサーの持ち主に売却するイメージです。
地主が自用地として活用したいという場合は、交渉がうまくいく場合もあります。
ただし、もともとは期間終了後に更地で返還する契約であるため、地主が建物を利用するという場合を除いて建物の解体費用が発生します。
借地権の活用や売却には費用の負担など一定のハードルがあります。不動産買取の場合はデメリットをすべて理解した上で不動産業者が現金一括で買い取ります。
一度相続人が相続した後、地主の許可を取り借地権を不動産会社に譲渡します。
仲介で売却するよりは査定価格が低くなってしまいます。しかし、成約までに時間がかかりやすい仲介に対して、不動産買取は価格に納得さえしていれば最もスピーディな問題解決が可能な方法です。
相続放棄をするかどうかの決断は3カ月以内にしなければいけません。仲介で時間をかけて売却したり、地主とじっくり交渉したりすることが難しい場合は、不動産買取で売却するのがおすすめです。
借地権を相続することによる管理の手間や維持コストは無視できません。
しかし、相続放棄をするとほかの財産も相続できないという大きなデメリットがあるため、相続財産の全体像を把握してから判断する必要があります。
借地権の物件であってもそれなりの値段はつくため、まずは早い段階で借地権の取り扱いに慣れている不動産会社に相談することをおすすめします。
そうした業者は地主との交渉や活用方法などにも精通しているため、解決策が見つかるかもしれません。