不動産売却のノウハウ
不動産を売却する場合、売買の翌年に確定申告が必要ですが、正しく申告するためには「取得費」についての知識が欠かせません。
不動産売却における取得費の考え方や、取得費が不明な場合の対処法について詳しく解説します。
不動産売却 費用・税金2025年7月22日
取得費とは、今回売却する不動産を元々手に入れた際にかかった費用のことです。
不動産を譲渡(売却)して収入を得たときは「譲渡所得」として所得税がかかりますが、この譲渡所得を計算するときに、取得費を経費として差し引けます。
譲渡所得の計算式は、以下の通りです。
譲渡所得=売却で得た収入-(取得費+譲渡費用)
したがって、取得費の金額が多いほど譲渡所得は少なくなり、結果として納める税金も少なくなります。
また、取得費と混同されやすい費用に「譲渡費用」があります。
譲渡費用とは、不動産を売却するために直接かかった費用です。
譲渡費用の例は、以下の通りです。
など
譲渡費用も、取得費と同様に譲渡所得から経費として差し引けます。
損をしないように、取得費・譲渡費用はもれなく計上しましょう。
では、実際にはどんな費用が取得費に該当するのでしょうか。
不動産売却時に、取得費に含まれる主なものは以下の通りです。
1つずつ解説します。
不動産を購入する際に支払った土地の代金は、当然取得費に含まれます。
建物の購入代金や注文住宅を建てた場合の建築請負代金も、当然取得費に含まれます。
建物は年月が経つにつれてその価値が減少していくため(減価償却)、取得費は購入時の価格から建物の価値が下がった分の金額を差し引いて計算します。
不動産購入時に不動産会社に支払った仲介手数料は取得費になります。
契約書に貼付した収入印紙代、不動産を取得した際に支払った不動産取得税、登記時に支払った登録免許税などの税金は取得費に含められます。
相続で不動産を取得した場合は、印紙税と不動産取得税は支払っていませんが登録免許税は支払っています。こちらも取得費に加算できます。
不動産登記を司法書士に依頼した場合は、司法書士への報酬も取得費として認められます。
土地を購入した際に整地や測量をした場合も、取得費に含められます。
土地や建物を購入するためにローンを組んだ場合、その利息のうち「実際に使い始めるまでに発生した分の利息」は取得費として計上できます。
参考:国税庁 | No.3252 取得費となるもの
一方で、以下のような費用は取得費になりません。
居住用の不動産の場合は、税金(収入印紙代・不動産取得税・登録免許税)や司法書士報を取得費に含められますが、事業用の不動産については取得費にならない点に注意してください。
不動産を売却したときの取得費を計算する際は、土地と建物を分けて考える必要があります。
土地は時間が経っても価値が下がるとは考えられていないのに対し、建物は年数が経つと価値が下がっていくと考えられるからです。
このように、時間が経過することで生じた経済的な価値の減少分を費用として計上する制度を「減価償却」と言います。
したがって、建物の取得費は、購入時の価格から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額となります。
具体的に、以下の条件で計算してみましょう。
【条件】
減価償却費を計算するには、購入時の価格に0.9をかけた金額に、法定耐用年数に基づく償却率と経過年数をかけます。
減価償却費=3,000万円 × 0.9 × 1.5% × 40年=1,620万円
建物の取得費=購入価格-減価償却費であることから、
建物の取得費=3,000万円-1,620万円=1,380万円
です。
土地の取得費は、購入価格がそのまま取得費になるため、
土地・建物の取得費=2,000万円+1,380万円=3,380万円
となります。
このように、建物の取得費は実際の購入金額より低い金額になります。
参考:国税庁 | 「減価償却費」の計算について
次に、土地と建物の金額の内訳が分からない場合や、取得費が分からない場合の対策を解説します。
マンションや建売住宅などで土地と建物を一括購入した場合、金額の内訳がはっきりしないことがあるかもしれません。
しかし、売却時には土地と建物の金額を区別する必要があります。
土地と建物の内訳を調べる方法は以下の通りです。
順番に解説します。
土地と建物の価格が明記されていなくても、消費税額が記載されていれば建物にかかった価格の特定が可能です。
具体的に計算してみましょう。
【条件】
この場合、建物の価格の計算式は以下の通りです。
建物の価格(税抜)=消費税 ÷ 消費税の税率
=80万円÷0.1
=800万円
税抜の建物価格に消費税を足して、800万円+80万円=880万円(税込)となります。
これにより、建物価格 880万円
土地価格 3,000万円-880万円=2,120万円
と特定できます。
消費税額が分からない場合は、「建物の標準的な建築価額表」を使って建物の価格を計算してもかまいません。
標準的な建築価額とは、国税庁が発表する「建物が建てられた当時の標準的な建築単価」のことです。
この単価に建物の延床面積をかけて、建物の価格を求めます。
具体的に計算してみましょう。
【条件】
この場合、建物の価格の計算式は以下の通りです。
建物の価格=当時の建築単価×延床面積
=15万8,600円×80㎡
=1,268万8千円
したがって、
建物価格 1,268万8千円
土地価格 3,000万円-1,268万8千円=1,731万2千円
となります。
参考:国税庁 | 建物の標準的な建築価額表
固定資産税評価額を使って、建物の金額を割り出すこともできます。
固定資産税は土地と建物が別々に評価されているため、この評価額の比率に注目して金額を按分します。
具体的に計算してみましょう。
【条件】
固定資産税の比率は、建物800万円:土地1,200万円なので2:3です。
したがって、建物の価格は
3,000万円×5分の2=1,200万円
土地の価格は
3,000万円×5分の3=1,800万円
です。
不動産の購入金額を証明できる資料が何も残っていない場合は、売却収入額の5%を概算取得費として計上することが認められています。
たとえば、不動産を3,000万円で売却した場合の取得費は
3,000万円×5%=150万円
です。
ただし、概算取得費の制度を利用するかどうかは、不動産をいつから所有しているかによって違うので注意してください。
昭和27年12月31日以前から所有している場合は、取得費が分からないときは必ず概算取得費(売却金額の5%)を適用します。
一方、昭和28年1月1日以降に取得した不動産の場合は「取得費が分からなければ、5%で計算してもいいですよ」という選択肢として認められています。
つまり、必ずそうしなければいけないというわけではないということです。
概算取得費を使うかどうかは、他の方法でも試算してみてから判断しましょう。
参考:国税庁 | | No.3258 取得費が分からないとき
取得費がまったく分からないときの対策として、「市街地価格指数」を使って取得費を算出する方法もあります。
市街地価格指数とは過去の宅地価格の推移を示す指標で、一般財団法人・日本不動産研究所から発表されています。
この指数を活用することで、購入当時の土地価格の推定が可能です。
市街地価格指数で算出した取得費が認められれば、概算取得費よりも節税できる可能性が高くなります。
ただし、市街地価格指数を利用して取得費を算出する方法は、あくまで参考的な手法の1つであるため、税務署が必ず認めてくれるとは限りません。
税務調査で市街地価格指数による取得費の算出が妥当ではないと判断された場合は、概算取得費(売却金額の5%)に修正されます。
それだけではなく、過少申告していた分について追徴課税が発生し、延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課される可能性もあります。
市街地価格指数を使う場合は、事前に税理士や税理士と提携する不動産会社に相談し、慎重に検討しましょう。