不動産売却のノウハウ

不動産売却を進める中で、「司法書士には依頼すべきなのか」「そもそもどんな役割を果たすのか」と疑問を抱く方は少なくありません。名義変更や登記といった専門的な手続きが絡むため、誰に何を任せるべきか判断に迷うこともあるでしょう。
司法書士が不動産売却において担う役割や、依頼が必要となるケース、依頼しないことで起こりうるリスクまでを詳しく解説します。
不動産お役立ちコラム 不動産売却2025年12月3日
不動産売却は高額な取引で、法的手続きや登記の正確性も重要なため、専門知識を持つ司法書士に委託するのが慣例です。不動産売却で、司法書士は登記や抵当権抹消など複雑な手続きを、安全かつ正確に遂行する役割を担っています。具体的にどのような業務を行うのか見ていきましょう。
不動産売却時に、司法書士が通例として行っている業務を以下にまとめました。
いずれも、専門的な知識がなければスムーズにまとめられない書類の作成や、手続きに関する業務です。個人で行うことも法的には可能ですが、司法書士を通さない決定は、買主・売主双方の同意が必須なため、司法書士を通さず不動産売買を行うケースは極稀なのが実情です。

不動産売却では、法的な手続きを正確かつ迅速に進める必要があります。その中でも登記や抵当権の処理は専門的な知識が求められ、比較的難易度が高いため、司法書士へ依頼するのが通例です。司法書士が必要とされる、具体的な理由を見ていきましょう。
不動産取引では、登記の正確性が取引成立のスピードに直結するため、買主が主導して司法書士に依頼するのが一般的です。これは、所有権移転登記を確実に行い、自身の権利を守るためでもあります。本来、売主が依頼しても構いませんが、慣例的に買主が司法書士を手配します。
また、売却物件にローンが残っている場合には「抵当権の抹消手続き(抵当権抹消登記)」が必要です。具体的には、金融機関が設定した担保権を正式に解除し、登記簿上からその権利を削除します。
法務局に申請する必要があり、抵当権設定時と同様に専門知識が求められるため、通常は司法書士が担当します。抵当権抹消登記には登記識別情報・登記原因証明情報・委任状などが必要で、正確な書類作成と申請が求められます。
所有権移転登記とは、不動産の所有者が変わったことを法的に登録する手続きで、買主が正式な所有者として認められるのに必要な手続きです。
登記が完了しないと、買主は不動産を正当に使用・処分できません。司法書士は、この登記を円滑に行うため、必要な書類を作成・確認し、法務局への提出まで一貫して対応します。
不動産取引の現場では、名義変更などの手続きを正しく進行させるため、司法書士の立ち合いが慣例となっています。法的に絶対必要ではなく、売主・買主双方が同意していれば不在でも手続き可能です。
しかし、手続きのミスやトラブルを避けるため、専門家による確認・証明があるほうが安全です。
実際、司法書士なしで取引を進めるケースは、取引件数全体の数%未満とされています。司法書士が立ち会うことで、登記が正確に行われ、本人確認や書類チェックを通じて詐欺・トラブルのリスクを抑制できます。
不動産購入で住宅ローンを利用する場合、金融機関がその不動産に新たな抵当権を設定します。この手続きは、法的にも正確な対応が必須で、専門知識が不可欠なため、司法書士を通さない金融機関はほぼありません。
個人での対応も不可能ではないものの、書類の不備や申請ミスが発生すれば、ローン実行が遅れるおそれもあり、非常にリスクが高くなります。
司法書士への依頼費用は一般的には買主が負担しますが、抵当権抹消など売主側事情による手続きについては、売主が支払う費用もあります。
売主側が負担する代表的な費用は、以下のとおりです。
総額としては1〜3万円程度が相場です。仲介不動産会社によっては、提携司法書士の採用で費用が割安になることもあります。
司法書士を利用せず、売却にかかわる登記や書類作成をすべて自分で行うことは法的には可能ですが、リスクもあります。どのようなリスクがあるのか見ていきましょう。
登記申請書類の記載ミスや必要書類の不足があると、法務局で受理されず、取引全体が遅延するリスクがあります。また、誤った登記内容となると、トラブルの原因にもなりかねません。
例えば、所有者の氏名・住所や面積が誤って登記される「錯誤登記」となると、支払う税金関係に相違が発生したり、所有権が主張できなくなったりと、トラブルになります。
錯誤登記となると一度誤った情報を抹消し、更正登記(正しい内容で登記)しなくてはなりません。
登記・抹消手続きは自分でも可能ですが、法的な知識や申請書類の作成スキルが必要です。慣れない人にとっては難しく時間がかかり、錯誤登記のリスクも高まります。
司法書士を介さない場合、以下のようなトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
過去には、Aさんの不動産をAさんになりすました第三者(地面師)が、偽造書類を使ってBさんに売却したという詐欺事件も報告されています。このようなケースでは、買主は詐欺であると気づくのが難しく、大きな損害を被ることになります。
司法書士は本人確認を徹底し、こうしたリスクを最小限に抑える役割を担っています。
売主の立場であっても、このような詐欺トラブルに巻き込まれてしまうリスクは避けたほうがよいでしょう。
売主の立場では加害側となるトラブルではありますが、二重売買というトラブルのリスクもあります。
売主が複数の買主と並行して売買契約を進めた場合、先に所有権移転登記を済ませた方に所有権が認められます。先に購入意思を示していても、登記手続きが後手に回ると、訴訟を起こしても所有権を取り戻すのは困難です。迅速かつ正確な登記を行うためにも、司法書士に依頼することが望ましいです。
なお、故意に二重売買を行った場合、売主は詐欺罪(刑法246条)や背任罪(刑法247条)に問われる可能性があります。これらは刑事罰の対象となる重大な違法行為です。
司法書士を通さない不動産売買でありがちなトラブル例ですが、支払いがされないうち、もしくはローン承認前に売買契約を締結した場合で、支払いがされない、ローンが否認となり進められなくなるトラブルもあります。
こうしたトラブルを避けるためにも、正しく安全な取引となるか監督できる、司法書士を通し、適切な流れと手続きを踏んで売買契約を進めていきましょう。