不動産売却のノウハウ
借地権売却時に発生する税金や費用について解説します。
所有している借地権の売却を検討し始めたら、あらかじめどのくらいの費用が発生するのかを把握しておきましょう。
2021年9月21日
借地権とは、誰かが所有する土地を借りて使用する権利のことで、所有権と同じように売買できます。
借地人は地主に毎月地代を支払い、借りた土地に建物を建築して居住や事業などに利用します。
借地権は1992年に成立した借地借家法に基づく契約か、それともそれ以前の旧借地法に基づく契約かによって内容が大きく変わります。
1992年8月以前から土地を借りている場合は、旧借地法に基づく借地権です。
物件資料には「旧法借地権」と表記されていることもあります。
旧借地法では、借地上に建てる建物の構造によって借地権の存続期間が異なります。
建物の構造 | 存続期間 | 更新後の 期間 |
契約時に 存続期間を 定めなかった場合 |
---|---|---|---|
木造 | 20年以上 | 20年以上 | 30年 |
鉄骨造 鉄筋 コンクリート造 |
30年以上 | 30年以上 | 60年 |
これは最低存続期間であり、これ以上の期間を定めることも可能ですが、これを下回る期間を定めた場合は無効となり、自動的に20年または30年に延長されます。
更新の際には、借地人は地主に対してあらかじめ契約で定めた更新料を支払います。
旧法借地権の重要なポイントは、借地人は以下の項目を地主に求めることができ、これらを土地の所有権を有する地主の方から拒絶するには正当な事由が必要となる、という点です。
つまり、借地人が拒絶しない限りは半永久的に借地権が更新されていきます。
借地借家法に基づく借地権には、「定期借地権」のほかに、旧法借地権をベースとした「普通借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」「一時使用目的の借地権」がありますが、現在一般的に取引されている借地権はほとんどが、この「定期借地権」となっています。
旧法借地権は借地人の権利を保護するため、地主は契約の更新や期間の延長、建物の買取の請求を拒否できないと規定されていました。
しかし、半永久的に契約が更新されてしまうと土地の所有権を持つ地主がいつまでも自分の土地を利用できないというデメリットがありました。
そのため、改正後の借地借家法に基づく「定期借地権」では、契約更新や買取請求についての規定が以下のように一部緩和されました。
定期借地権では存続期間が50年以上の長期契約となっていますが、契約の更新がなく、期間満了後に借地は地主に返還されます。
また、期間を満了しても借地人は建物を買い取ってもらえないため、建物を取り壊し、更地にして返還する必要があります。戸建て、マンションともにありますが、マンションの場合は管理組合で新築時から建物の解体費用を積み立てていることが一般的です。
所有権か借地権かにかかわらず、不動産の売却にはさまざまな税金や費用がかかりますが、ここでは借地権の不動産を売却する際にかかる費用について解説します。
仲介手数料
仲介業者に支払う手数料 売買代金の3%+6万円と消費税
印紙税
売買契約書に貼付する収入印紙にかかる税金
登録免許税等
借地上に建てた建物を解体する場合は、建物の登記の抹消費用(登録免許税は不要)
建物付きで売却する際、抵当権を設定している場合は、その抹消にかかる費用
借地人は地主の承諾なしに借地権を第三者へ譲渡(売却)できません。
売却する際は、地主に対して「譲渡承諾料」を支払う必要があります。
これは「借地権名義変更料」とも呼ばれ、 相場は売却価格(成約価格)の1割程度とされています。
譲渡所得税とは、不動産の売却時に得た利益にかかる税金のことです。
具体的には、借地権を譲渡した時に譲渡所得が発生した場合に、所得税と住民税が課税されます。
「譲渡所得」は、不動産の売却価格から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いて計算します。
譲渡所得=譲渡価格ー(取得費+譲渡費用)
取得費とは、不動産の購入価格に仲介手数料などの諸費用を加えたものから、建物の減価償却費用を差し引いた金額です。
借地権の場合、取得費には借地契約料や更新料、増改築の承諾料などが含まれますが、毎月支払う地代は含まれません。
譲渡所得税は所有期間によって短期譲渡所得・長期譲渡所得の区分があり、それぞれ税率が異なります。
所有期間 | 区分 | 税率 |
---|---|---|
5年以内 | 短期譲渡所得 | 所得税30.63%+住民税9% =39.63% |
5年を 超える |
長期譲渡所得 | 所得税15.315%+住民税5% =20.315% |
※上記税率には特別復興税を含みます。(令和19年まで)
また、既存の建物を解体して更地にして売却するという場合、建物の取り壊し費用や土地の測量費などがかかります。これらの費用は譲渡所得の計算の際、譲渡費用に含むことができます。
マイホーム(居住用財産)を売却したときの特例として、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円までが控除できます。
また、この特例は借地権を売却したときにも適用されます。
参考資料:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
適用される場合、課税譲渡所得金額の計算方法は以下の通りです。
課税譲渡所得金額=不動産の売却代金-(取得費+譲渡費用)-3,000万円
つまり、譲渡所得が3,000万円以下の場合、納税額は0円となります。
特例の適用を受けるには確定申告が必要です。
借地権は所有権と同じように売買することが可能ですが、いくつか注意すべき点があります。
借地権には旧法借地権と定期借地権があることを前述しました。
それぞれについての注意点を紹介しますので、自身の借地権がどちらに当てはまるかを把握して参考にしてください。
旧法借地権の場合は、借地人が地主に対して「契約の更新」「建物の増改築による期間の延長」をすることができ、地主は正当な理由なくこれを断ることはできません。更新拒絶された場合に「建物買取請求」可。
借地人が希望すれば半永久的に更新し続けることができるため、購入者は自分の希望通りの期間そこに住み続けることができます。
そのため、スムーズに売却できるようにも思えます。
過去に更新料の不払い、地代の支払い遅延、供託等があった場合には、借地権譲渡に必要な地主の承諾が得られない場合があります。
定期借地権の場合は、契約の更新や延長、建物の買取請求権が認められていません。
売却したいタイミングで、借地を地主に更地で返還する期間満了が迫っている場合は、購入者が長く住むことができません。そのため、取引が難しくなります。
一定の残存期間がある場合でも、築年数の経過した建物には金融機関の担保評価がつかないことが多く、この場合は住宅ローンを利用できないため、一般個人への売却は非常に難しくなります。
借地権を第三者に譲渡するときは地主の承諾が必要ですが、相続の場合は承諾を得る必要はありません。
手続き上「名義書き換え書」を作成することもありますが、「譲渡承諾料」のような金銭を支払う必要はありません。(※地主によっては、稀に請求される場合もあります。)
しかし相続人がその家に住まない場合は売却か賃貸かを選択することになります。
所有権の不動産であればスムーズに売却が可能ですが、借地権の不動産売却は複雑です。
借地権を売却しない場合の選択肢としては、以下の3つがあります。
借地権付きの建物は、地主の各種承諾の可否により売却価格が大きく下がってしまう可能性があります。
しかし、賃貸の家賃相場は所有権の物件と変わらないため、賃貸に出すことで定期的な収入を得ることができます。
建物が古くて住めないという場合、建物を建て替えて自分が住む、または賃貸に出すということも選択できます。
ただし、契約内容によっては地主に「建て替え承諾料」を支払う必要があります。
また、定期借地権の場合、期間満了時には建物を取り壊し、更地にして返還しなければならないという点は注意が必要です。
借地権を第三者に転貸することも可能です。
借地上の建物を賃貸に出す場合と異なり、転貸は建物を建て替えることも可能ですが、地主の許可が必要です。
借地権の取引は複雑な点が多く、住宅ローンを利用できないことも多いため、一般個人向けに売却することは難しくなります。
そのため、現実的な借地権の売却方法としては以下の4つがあります。
借地権の残存期間を地主が買い取ることで、地主はその土地の所有権を売却しやすくなります。
地主が相続で代替わりしているケースや、地価が高騰している場合は買取の交渉がうまくいくこともあります。
ただし、原則として借地上の建物は取り壊して更地で返還する必要があります。
双方合意の上で地主が建物を買い取る場合は不要です。
地主が土地の所有権、借地人が借地権と借地上の建物の所有権を共同で売却することで、一般個人向けにも売却しやすくなります。
借地権の取り扱いに慣れた不動産会社であれば、地主と交渉してこのような売却方法ができる場合もあります。
借地人が底地(借地となっている土地)を買い取ることで、通常の所有権の土地建物として第三者に売却しやすくなります。
上記3つは、いずれも地主との交渉が必要ですので、借地権の取り扱い実績の豊富な不動産会社に相談し、交渉を進めましょう。
借地権を売却したいときに、もっともスピーディな解決方法は専門業者に買い取ってもらうことです。
専門業者は借地上の建物をリフォームして賃貸に出したり、底地を買い取って売却したりといった借地権の活用ノウハウや、借地権の評価額の算出方法なども熟知しています。
難しい交渉はしたくないという方や、相続税の支払いなどが迫っており、地主との十分な交渉期間が取れないという場合には、専門業者による買取がおすすめです。