不動産売却のノウハウ
生産緑地とは、生産緑地法で定められた制度です。緑地に備わった地盤の保持と保水機能を考慮し、さらに農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境を形成する目的で成立しました。
生産緑地に指定されると、農業用倉庫など農地に関する建物以外は建築できません。しかし、固定資産税の軽減など、税制上の優遇措置が受けられます。
生産緑地の指定が解除されると、いままで軽減されていた分の固定資産税はどうなるのでしょうか。相続税や贈与税とそれぞれ扱いが違うため注意が必要です。
本記事では、生産緑地の指定解除による税金面での影響を解説します。また、その他の費用についても紹介するので、資金面に不安がある方の参考になれば幸いです。
2022年9月9日
生産緑地に指定されている土地において、軽減される税金は次のとおりです。
項目 | 税金 |
---|---|
不動産資産に関する税金 | 固定資産税 |
都市計画税 | |
相続や贈与に関する税金 | 相続税 |
贈与税 |
ここでは、それぞれの税金の概要や生産緑地に指定されていると受けられる優遇措置について解説します。
生産緑地を相続または贈与により引き継いだ人は、納税を猶予される特例があります。
税金 | 概要 | 生産緑地を取得したときの納税猶予額 |
---|---|---|
相続税 | 被相続人から遺産を引き継いだ相続人が納める税金 | 本来かかる相続税から、農業投資価格(農業に使用されることを前提とした売買価格)に基づき計算した相続税を差し引いた金額 |
贈与税 | 贈与者から財産を取得した受贈者が納める税金 | かかる贈与税全額 |
なお、納税猶予が適用されるのは、次の条件に該当するケースです。
ただし、贈与者が死亡し免除を受けた場合、納税猶予の対象になっていた生産緑地は、贈与者から相続したものとみなされ、相続税が課されてしまいます。
生産緑地の指定を何らかの理由で解除した場合、税制上の優遇措置が適用されなくなります。税金によっては、その期間を遡って納付する必要があります。
ここでは、指定解除した場合の固定資産税や相続税、贈与税の納付について解説します。
後ほど詳しく紹介しますが、相続税や贈与税は、相続や贈与の発生時点まで遡って猶予されていた分の税金を支払う必要があります。
固定資産税の場合は、生産緑地の指定期間である30年が経過する前に解除されても、猶予されていたものはそのまま、遡って課税されることはありません。
ただし、生産緑地の指定が解除されると、翌年から宅地並み課税になります。つまり、減税されていたときより、重い税負担があります。
なお、生産緑地の指定期間である30年を経過後、引き続いて生産緑地を10年延長する、特定生産緑地という制度があります。この特定生産緑地の指定を受けなかった場合は激変緩和措置があり、5年間かけて徐々に宅地並みの税額に引き上げられます。
生産緑地の指定を解除すると、相続税の納税猶予が取り消されます。納税猶予が取り消されると、相続税が免除されず、相続時まで遡って課税されます。これを遡り課税ともいいます。
また、相続税の納税猶予額だけではなく、猶予日数に応じた利子税(年3.6〜6.6%)も納める必要があります。
以下の前提で課税額を算出してみましょう。
まず、利子税の年3.6%から、1年間の利子税額を算出します。
5,000万円 × 3.6%=180万円
10年間猶予されていたので、利子税の合計金額は以下のとおりです。
180万円 × 10年=1,800万円
納税猶予額と利子税の合計金額を計算すると、次のようになります。
5,000万円+1,800万円=6,800万円
つまり、この例で生産緑地の指定を解除すると、相続税を6,800万円納税することになります。
ただし、国は利子率の計算で特例基準割合という特殊なレートを基準としています。各年の利子税特例基準割合は毎年変動し、もしも年7.3%に満たない場合は、以下で年率を計算します。
利子税の年率=(6.6%もしくは3.6% ) × 利子税特例基準割合 ÷ 7.3%
参考:国税庁「No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」
なお、相続税では特定生産緑地の指定を受けなかった場合、現世代に限り次の相続まで猶予が継続する措置も適用されます。
生産緑地の指定を解除すると、贈与税の納税猶予が取り消されます。こちらも相続税と同様に、納税が猶予されていた分を遡って支払います。
また、贈与税の場合も納税猶予額のほか、猶予日数に応じた利子税(年3.6%)を納める必要があります。
以下の前提で課税額を算出してみましょう。
まず、利子税の年3.6%から、1年間の利子税額を算出します。
4,000万円 × 3.6%=144万円
10年間猶予されていたので、利子税の合計金額は以下のとおりです。
144万円 × 10年=1,440万円
納税猶予額と利子税の合計金額を計算すると、次のようになります。
4,000万円+1,440万円=5,440万円
つまり、この例で生産緑地の指定を解除すると、贈与税を5,440万円納税することになります。
ただし、贈与税の場合も相続税と同様に各年の利子税特例基準割合は毎年変動します。もしも年7.3%に満たない場合は、以下の式で年率を計算します。
3.6% × 利子税特例基準割合 ÷ 7.3%
生産緑地が指定解除になる要件は、次のとおりです。
このようなやむを得ない事態が発生すると、おおむね次の手順で指定解除を進めます。
指定解除までは、約5〜7ヵ月かかります。ここでは、指定解除で発生する費用などについて解説します。
自分で指定解除を申請する場合は、主に次の手数料が必要です。
弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に指定解除の手続きを依頼すると、次のような申請作業や調整作業を代行してもらえます。
専門家に依頼すると、12万円以上の費用がかかります。しかし、本来なら申請者が行う面倒な事前協議や煩雑な作業などをしてくれるため、スムーズな手続きの進行が期待できます。
なお、農地を農地以外に転用したい場合、知事の許可を受ける必要があります。こちらの申請を頼むと、さらに3万円以上かかるケースがあります。
弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に生産緑地指定の解除の相談をすると、相談料は1時間で約5,000〜1万円かかることがあります。中には初回相談料が無料の事務所もあります。しかし、報酬の設定は各事務所が自由に定められるので、相談前に確認しておく必要があります。
生産緑地指定の解除を検討していて、どこに相談したらよいかわからない場合は、まずは不動産会社に相談してみましょう。
相談料は無料ですし、生産緑地指定の解除に関するノウハウを有しており、いろいろな不明点と疑問点にわかりやすく回答してくれるでしょう。
また、不動産会社は幅広く提携しているので、最適な専門家を紹介してくれます。生産緑地の指定を解除したあと、どのように土地を有効活用するか、親身にアドバイスをしてくれる頼もしい存在といえます。信頼できる専門家を見つけましょう。
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