不動産売却のノウハウ
マンションを相続すると、相続税はいくらかかるのでしょう。
相続税は、相続した財産に課される税金ですが、マンションなどの不動産は価値がわかりにくいもので、現預金や、上場企業の有価証券のように市場価値が明瞭ではありません。
まったく価格が見当つかずでは、相続税を支払う準備もできません。
この記事では、マンションにおける相続税の計算方法とあわせて、相続税を軽減する特例や控除についても解説します。
2021年12月13日
マンションを相続した場合、相続税を計算するには、下記の過程を経て各人の相続税額が算出されます。
という過程を経て各人の相続税額が算出されます。
③・④の過程は法定相続人(法律に基づいて相続する権利がある人)が決まらない限り算出が困難ですので、ここでは①・②を中心に解説していきます。
まず、マンションの評価ですが、マンションも一戸建ての住居と同じように、建物と土地に分けて計算していきます。
マンションの建物の評価は一般的な建物と同様で、「固定資産税評価額×1.0」で評価されます。
つまり、固定資産税の評価額が建物の相続税評価額ということです。固定資産税評価額は、市町村から毎年送られてくる「固定資産税の課税明細書」に記載されています。
マンションの土地の評価は、「マンション全体の敷地×持分割合」です。
マンション全体の敷地の計算は、相続税法における土地の評価方法と同じです。ただし、マンションの敷地の場合、居住者全員の共有資産なので、各人の持分割合を乗じる必要があります。
なお、持分割合は、売買契約書や登記事項証明書に「敷地権の割合」として「〇分の〇」と記載されています。
相続税法における土地の評価方法は、「路線価方式」と「倍率方式」とがあり、路線価が定められた地域は路線価方式で計算、路線価が定められていない地域は倍率方式で計算します。
路線価とは、国税庁が定めた市街地の道路に面した土地の価格のことで、その価格は国税庁のホームページで確認できます。
「路線価方式」「倍率方式」それぞれの計算方法は、下記のとおりです
「路線価方式」:「路線価×土地の面積」
「倍率方式」:「固定資産税評価額×評価倍率」
ここでの固定資産税評価額は、建物と同様で市町村から毎年送られてくる「固定資産税の課税明細書」に記載されています。評価倍率は、国税庁が地域別に定めた倍率で、国税庁のホームページで確認できます。
ここで、相続税の税率にも触れておきます。一般的にはなじみのない相続税ですが、その税率はどれくらいなのでしょうか?
贈与税と比較しながら相続税の速算表を紹介します。
下表、左側が国税庁が公表している「相続税の税率」、右側が同じく国税庁が公表している「贈与税の計算と税率(一般贈与財産用)」です。なお、贈与税には一般贈与財産用の一般税率と特例贈与財産用の特例税率があります。
特例贈与とは、直系尊属(祖父母や父母)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子や孫など)への贈与で、それ以外は一般贈与です。
相続税、贈与税はともに超過累進課税といって、課税標準(税率を乗じる対象となる価額)が大きくなるにつれ、税率が高くなる仕組みになっています。
比較すると、相続税より贈与税の方が超過累進課税がより小さな金額で顕著に現れます。たとえば、課税標準「1,000万円以下」を例にすると、相続税では一律10%の税率が適用されるのに対し、贈与税では、5段階に分けて税率が上がり最高では40%となっています。
これは、何年かに分けて小刻みに生前贈与をし、相続財産を減らして相続税を免れるのを補完するためで、贈与税は相続税を補完する税制といわれるゆえんです。
相続税の速算表 | 贈与税の速算表 (一般贈与財産用) |
||||
---|---|---|---|---|---|
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 | 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー | 200万円以下 | 10% | ー |
300万円以下 | 15% | 10万円 | |||
400万円以下 | 20% | 25万円 | |||
600万円以下 | 30% | 65万円 | |||
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | |||
3,000万円以下 | 15% | 50万円 | 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | |||
5,000万円以下 | 20% | 200万円 | 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 | |||
2億円以下 | 40% | 1,700万円 | |||
3億円以下 | 45% | 2,700万円 | |||
6億円以下 | 50% | 4,200万円 | |||
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税は、相続した財産があれば、必ず課税されるわけではありません。課税されるのは基礎控除を超えて財産を相続した場合です。
ですから、相続した財産が基礎控除額以下なら課税されないわけです。
また、基礎控除額を超えても、相続人に配偶者がいれば「配偶者の税額軽減」、一定の要件を満たすマンションであれば「小規模宅地の特例」を使うことで、非課税にすることや、税額の軽減もできます。
基礎控除の計算式は、下記のとおりです。
「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」
たとえば、法定相続人が妻、子二人の合計三人である場合の基礎控除額は、
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
となり、マンションの評価額が4,800万円以下であれば、相続税は課税されません。
配偶者が取得する財産が次のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないという制度です。
法定相続分は民法で次のように定められています。参考にしてください。
配偶者の 法定相続分 |
子供、両親、 兄弟姉妹の 法定相続分 |
|
---|---|---|
配偶者と子供 | 1/2 | 1/2 |
配偶者と両親 | 2/3 | 1/3 |
配偶者と 兄弟姉妹 |
3/4 | 1/4 |
*子供、両親、兄弟姉妹が2人以上いるときは原則として均等に分けます。
小規模宅地等の特例とは、相続した宅地が要件を満たせば、その宅地の評価額を最大80%減額できるという制度です。
評価を減額できるので、たとえば相続税評価額で1億円の土地を持っていた場合、要件を満たせば80%減額して、評価額は2千万円となります。評価額が減額されるので、当然相続税額も少なくなります。
この制度の名称に「宅地」とあるので、イメージしづらいかもしれませんが、マンションも該当します。
マンションの場合、前述した「マンション全体の敷地×持分割合」の部分がこの制度の評価を減額する対象です。
減額の割合と面積の上限については、そのマンションが居住用のものなのか、貸付用のものか、事業用に使われていたのか、により変わってきます。具体的には以下のとおりです。
詳細は国税庁の公表する「小規模宅地等の特例」を参考にしてください。
宅地等の利用区分 | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|
事業用の宅地等 | 400㎡ | 80% |
貸付事業用の宅地等 (特定同族会社の事業用宅地等の場合) |
200㎡ (400㎡) |
50% (80%) |
居住用の宅地当 | 330㎡ | 80% |
税金は現金で一度に払うのが原則ですが、相続税については、何年かに分けて納める「延納」と相続などで取得した財産そのもので納める「物納」とが認められています。
延納は、相続税額が10万円を超え、一時に納付することが困難な場合に納税者が申請し、担保を提供することにより年賦で納付する制度です。
延納の担保として提供できる財産の種類は次のものに限られます。ただし、延納税額100万円以下で、延納期間が3年以下なら担保は不要です。詳細は国税庁の「相続税の延納」を確認してください。
【担保の種類】
相続税では、延納によっても金銭で納付することが困難な事由がある場合に、納税者の申請により一定の相続財産で物納することが認められています。
物納は相続財産のうち国内に所在するもので、次の財産です。なお、①から⑤の順で優先されます。詳細は国税庁の「相続税の物納」を確認してください。
延納と物納はどちらも申請が必要ですが、一定の審査があります。審査によっては許可されず、却下となることもあります。また、許可された場合にも、延納と物納による納付には利子税がかかります。
相続税が払えない場合の延納や物納も有用な手段ではありますが、審査があるという不確実性や利子税の負担、延納の場合には担保が必要になるなど、気軽に利用するには、リスクがあります。
負担やリスクが少なく納税資金を確保するためには、相続したマンションを売却し、現金化するのも有効な手段の一つです。
そもそも、相続したマンションで居住しない場合には、維持するのにコストや手間も生じます。その点でも売却にはメリットがあるといえます。
ただし、マンションなどの不動産は、すぐに買い手が見つかり早期に現金化できるとは限りません。また、立地条件や物件の状態によって市場価値は大きく変わってきます。
いざ、相続が発生し、納税資金に困窮することがないように、不安がある場合は早い段階で不動産会社へ相談することをおすすめします。