不動産売却のノウハウ
「不動産を売却したいけど、何から始めればいいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、不動産を売却する際の流れを、事前準備や不動産会社選びから、売却後の確定申告までを解説します。売却時にかかる税金・費用、売却時の注意点なども解説しますので、不動産の売却を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
不動産売却 基礎知識2024年8月7日
監修
AFP/社会福祉士/宅地建物取引士
キムラミキ
不動産を売却するときの流れは、事前準備から売却する不動産の査定、不動産会社選び、不動産会社が行う販売活動、売買契約・引き渡し、さらには翌年の確定申告まで多岐に渡ります。
ここでは、不動産売却の流れを項目ごとに詳しく解説します。
家の売却に際して、まず不動産会社に売却物件の価格を査定してもらいましょう。査定の種類には、築年数、間取り、構造、面積などのデータで簡易的に行う「机上査定」と、実際に現地を見て査定する「訪問査定」の2種類があります。
まずは、複数の不動産会社に「机上査定」を依頼し、査定結果が高すぎるまたは低すぎる不動産会社を除いて、査定結果についての根拠説明が納得できる不動産会社に「訪問査定」を依頼しましょう。
査定結果が高すぎる会社は、売却の依頼を受けたいがために市場の相場とは乖離した実現可能性の低い「見栄えの良い数字」を提示しているだけですので、そういった会社に任せてしまうと、売却活動中に何度も価格変更を促し、結果として成約するまでに長期化してしまうケースが多いため注意が必要です。
査定価格をもとに、実際の「売り出し価格」を決めていきますが、車の買取査定等とは異なるため、査定額で必ず売却できるとは限らないことには留意しておきましょう。
査定を依頼した不動産会社の中から、査定価格の根拠が明瞭で、地域に精通しており販売活動がしっかりしている不動産会社を選んで売却を依頼しましょう。
依頼する際に必要な「媒介契約」には、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があります。
一般媒介契約は複数の不動産会社に依頼できるのがメリットですが、不動産会社は労力を割いても報酬を得られない可能性があるため、時間と費用をかけた積極的な営業活動が見込めない場合もあります。
一方の「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」は不動産会社が1社に特定され報酬が得られる可能性が高いため、不動産会社の販売意欲が高まる傾向があります。
一般的には1社に限定して依頼する売主が多いようですが、それぞれのメリット・デメリットを考慮し、媒介契約の種類を決めましょう。また、不動産会社に仲介を依頼するときには、いつまでに、どのくらいの価格で売りたいのかを伝えておく必要があります。
なお、不動産の売却にかけられる期間が短い場合は、不動産会社による「買取」を選択するのも一案です。
【主な売却方法】
仲介
買取
個人間売買
「媒介契約」にもとづいて、不動産会社が販売活動を行って買主を見つけます。
不動産会社が行う販売活動には、不動産ポータルサイトへの物件情報の掲載や、広告チラシによるPR、さらには販売状況をみながらオープンハウス(現地見学会)などの手法が取られます。
売主は、内覧対応・準備が必要となるほか、場合によっては不動産会社を通じて、購入希望者と売買価格の折衝などもあります。
買主が決まれば購入申込を受け、双方の条件が纏まれば不動産会社の立ち合いのもと売買契約を締結します。契約時の手付金は契約価格の5~10%程度が相場ですが、状況により異なりますので、事前に不動産会社を通じて確認しておきましょう。
売買契約締結後、契約時に決めた引き渡し期限に沿って、物件の引き渡しと手付金を除く残代金を決済します。不動産会社立ち合いのもと、売主・買主が金融機関に出向いて行うのが一般的です。
引渡しの際は、「登記済権利証」「確定測量図・境界確認書」「建築確認通知書・検査済証」等をあらかじめ準備をしておきましょう。
また、固定資産税、マンションの管理費・修繕費など、すでに年払いや月払いで支払っているものは日割り計算などで精算して決済は完了します。
家や土地を売って、譲渡所得が発生した場合は、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告が必要です。
譲渡所得とは、売却価格から取得費と呼ばれる家を購入した際にかかった費用などを差し引いたものですが、譲渡所得がマイナスであれば確定申告の必要はありません。
確定申告の様式なども参考に、 取得費などを確認しながら譲渡所得を計算しますが、分からない場合は確定申告前に税務署に相談してみましょう。
不動産売却時には、多くの場合で必要となる印紙税や仲介手数料のほか、場合によっては登記費用が必要な場合もあります。また、売却の利益である譲渡所得が発生すると所得税などを納める必要もあります。ここでは費用について、詳しく解説します。
印紙税とは、経済的な取引文書、例えば売買契約書や請負契約書の作成などについて、印紙税法に基づき課税される税金です。
そのため、不動産の売買契約書においても契約金額が1万円以上の契約書に関しては、税金に相当する収入印紙を契約書に貼付して税金を納付します。
不動産売買にかかる本来の印紙税額は契約金額により最高60万円になりますが、令和6年3月31日までは軽減税率が適用され税額が少なくなっており、令和6年4月以降も延長されることになっています。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
10万円以下 | 200円 | 軽減なし |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 1,000円 | 500円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 2,000円 | 1,000円 |
500万円を超え1000万円以下のもの | 1万円 | 5,000円 |
1000万円を超え5000万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
※契約金額が1万円未満のものは非課税
不動産会社によっては、電子契約で売買契約を締結することで印紙税がかからない場合もありますので、電子契約を導入している会社かどうかもあらかじめ確認しておきましょう。
不動産を売却した際に、利益である「譲渡所得」が発生すると、その所得に対して「所得税」「住民税」「復興特別所得税」が課税されます。
税率は所有期間が5年を超えて売買した場合の「長期譲渡所得」と、所有期間5年以下で売買した場合の「短期譲渡所得」で異なり、税率は以下の図表のとおりです。
所有期間による譲渡所得 | 税 率 | |||
---|---|---|---|---|
所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 | |
長期譲渡所得(所有期間5年超) | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
短期譲渡所得(所有期間5年未満) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
仲介手数料とは、不動産会社に対する仲介業務への報酬のことで、売主・買主とも売買契約成立時に支払義務が発生し、上限の金額が法律で図表のとおり定められています。
あくまでも成功報酬となるため、契約が成立しない限り支払いは不要です。
支払うタイミングは「契約時に半分、引き渡し時に半分」のケースが多いようですが、不動産会社によって異なります。
ちなみに不動産会社に「買取」を依頼する場合は、仲介手数料は発生しません。
不動産売買価格(税抜) | 仲介手数料の上限 |
---|---|
400万円超 | 不動産売買価格×3%+6万円+消費税 |
200万円超~400万円以下 | 不動産売買価格×4%+2万円+消費税 |
200万円以下 | 不動産売買価格×5%+消費税 |
不動産を売却する際には、住所変更登記や抵当権がある場合は抹消登記の費用が必要です。
所有権移転の登記費用は通常買主の負担になるのが一般的ですが、住宅ローンの関係などで抵当権が設定されている場合などは、売主が抹消して引き渡します。
登記手続きはご自分で行うことも不可能ではありませんが、司法書士に依頼して行うのが一般的です。司法書士に依頼する際には、報酬が必要です。司法書士とのお付き合いがない場合には、不動産会社と提携している司法書士を紹介してもらえるように相談してみるとよいでしょう。
その他の諸経費として、ハウスクリーニング代や測量費用、引っ越し費用などが挙げられます。
一定の費用は必要ですが、不動産の販売前にハウスクリーニングなどで建物をきれいな状態にしておけば、内覧時の印象が良くなり、成約につながることも考えられます。
また、売却する土地の測量が行われていない場合、登記簿面積での売買も可能ですが、境界の問題などで売買後にトラブルになる恐れもあります。そのため、買主から測量を求められ、測量費用が必要となることもあるため注意が必要です。
また、居住中の物件の売却であれば、引っ越し費用も計算に入れておきましょう。
1年のうち、不動産の需要が大きくなり不動産の売却につながりやすい時期は、転勤などでの引っ越しで人の移動が多くなる年度替わりの1~3月あたりです。
通常3~6カ月程度は売却に時間がかかるのを念頭に、この時期をにらみながら早めに売却の計画を立てましょう。
また、築年数から見た場合、とくに戸建ての場合は築年数が経過すればするほど価値の減少が大きくなり、築20~30年を過ぎると建物については、ほぼ価値がなくなるとされています。そのため、遅くなれば遅くなるほど売却価格が下がりやすいことも考慮して、売却の時期を見極めましょう。
不動産の売却を、スムーズに、そして少しでも有利に進めるためには、余裕を持ったスケジュール設定や、最適な不動産会社選びなど、いくつかのコツがあります。
ここでは、不動産を売却する際に知っておきたいコツを3つ解説します。
不動産の売却を少しでも有利に進めるためには、十分な販売期間の確保が大切です。
販売期間が十分に取れず、売却に期限などがある場合は「売り急ぎ」になってしまい、価格を下げざるを得ない場合があります。
不動産の売買は市況に左右されたり、季節によって取引量の差があったりする上、最終的には買主との価格折衝が必要な場合も少なくありません。
売買成立には時の運や買主とのご縁があることも踏まえて、少しでも長く販売期間を取れるよう、余裕を持ったスケジュール設定を心がけましょう。
不動産を売却する際は、売主自身も可能な範囲で不動産に関する知識を身につけましょう。
特に、売却する不動産の相場などは、類似した物件の販売価格を不動産ポータルサイトで検索したり、「レインズマーケットインフォメーション」で実際の成約価格を確認したりできます。
また、販売活動そのものは不動産会社が行いますが、すべて任せっきりにするのではなく、売主も販売状況などを把握する必要があります。とくに販売状況が芳しくないときは、問題点などを共有し、不動産会社と今後の販売方針などを協議してみましょう。
不動産売却では、売主と不動産会社の二人三脚となるため、仲介を依頼する不動産会社選びが極めて重要です。不動産会社を選ぶ際のポイントは多岐に渡りますが、
などの点に注意して、不動産会社を選ぶ必要があります。
また、不動産会社によっては、地域に密着して活動している不動産会社もあるので、売却する物件がある地域に強い不動産会社を選ぶのも1つの方法です。
不動産の売却時には、売却する理由によって、注意すべき点が異なる場合があります。ここでは、以下の3つのケースに際して、注意すべきポイントを解説します。
子どもの成長などによる家族構成やライフスタイルの変化に伴い、住んでいた家を売却し、住み替えを検討する人は多いでしょう。
ただ、住み替えの場合、売却と同時に新居の確保も必要なため、より計画的に進める必要があります。
特に新居の購入資金に売却代金をあてる場合は、売却と購入のタイミングが合わないと新居の購入に支障が出たり、仮住まいの期間が想定以上に長くなったりしてしまいます。売却物件に住宅ローンなどが残っている場合は資金計画も事前に十分検討しましょう。
調整が必要な細かい手続きも多くなるため、余裕をもってスケジュールを立てておくことも大切です。
相続で不動産を取得したものの、活用する機会がないときは売却を検討する方もあるでしょう。
相続した不動産に関しては、令和6年4月1日から相続登記が義務化されるほか、登記未了では売却できませんので、他にも相続人がいる場合は、早めに話し合って登記を済ませておく必要があります。
また、相続した不動産が不要だからといって、管理せず空き家のまま放置してしまうと、近隣とトラブルになったり、固定資産税が上がったりするなど、さまざまなリスクがあります。そのため、売却が可能であれば早めに検討しましょう。
遠隔地への転勤や転職が不動産を売却するきっかけになることも少なくありません。特に急な転勤の場合、当面の住宅確保や引っ越しが売却よりも先に進むことになります。そのため、売却スケジュールには余裕があるでしょう。ただし、転勤や転職に伴い、新居の購入を考えて、その費用に売却費用を充てる場合にはスケジュールはかなりタイトになります。いつまでに、どれくらいの金額で売却したいのか、転勤や転職が決まったタイミングで速やかに不動産会社に相談しておくことも大切です。
また、転勤の場合には、転勤先から戻ってくる可能性があったり、転勤の期間がある程度決まっていたり、という場合には、売却だけでなく賃貸としての活用も検討する必要があります。
この記事では、不動産を売却する際の流れから、売却時にかかる税金・費用、売却時の注意点なども解説しました。不動産の売却を検討している方は、売却時の全体の流れやポイントを押さえたうえで、余裕を持って売却スケジュールを計画し、信頼できる不動産会社に仲介を依頼しましょう。
不動産売却を理想的に進めるためには、信頼できる不動産会社選びが極めて重要です。
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監修者情報
キムラミキ
株式会社ラフデッサン代表取締役。
AFP/社会福祉士/宅地建物取引士
日本社会事業大学で社会福祉を学んだ後、外資系保険会社、不動産会社(マンションディベロッパー、仲介)に在籍後、FPとして独立。現在は、株式会社ラフデッサン 代表取締役として、個人向けライフプラン相談をお受けするほか、コラム執筆、セミナー講師を務めている。また、障がいのある方の親なき後に関する課題解決のため、就労移行支援事業所の運営も行っている。